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NTT持株会社ニュースリリース

2014年6月13日

世界で初めて「フォノン伝搬の電気的制御」に成功
〜MEMS技術を用いた動的フォノニック結晶の実現〜

 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦博夫、以下 NTT)は、MEMS※1技術を用いた新しい構造のフォノニック結晶※2を作製し、弾性振動、いわゆるフォノンの伝搬を電気的に制御することに世界で初めて成功しました。
 フォノンの流れを自在に制御することにより、既存のMEMSセンサの検出感度向上や、信号増幅器や周波数変換器、分配器といったMEMSデバイスの多機能化が期待されます。さらには、フォノンの一種である熱の流れやすさを電圧で変調できる全く新しい熱機能人工材料の創製にも、本成果が将来的に役立つと予想されます。
 ここで得られた成果は、2014年6月15日(英国時間)に英国科学雑誌「ネイチャー・ナノテクノロジー」のオンライン速報版で公開されます。

1.研究の背景

 MEMSと呼ばれる電気機械システムは、機械素子のミクロな動きを自在に制御できることにより、学術的かつ実用的な観点両面から注目が集まっています。NTT物性科学基礎研究所ではMEMS共振器を用いた新しい応用技術の研究を進めており、これまでに、非常に高品質な超音波振動を出力できる超音波レーザ(SASER)や、わずかな重さや電荷の変化を検知できる超高感度センサ、弾性振動を用いたメモリやプロセッサといった信号処理デバイス等、様々な機能性機械デバイスを実現してきました。
 一方で、近年、光のフォトニック結晶※3の概念を物質の弾性振動である「フォノン」の制御に利用した「フォノニック結晶」と呼ばれる人工結晶が研究されており、フォノンが伝搬を担っている音や振動、熱等の新しい制御デバイスとして関心を集めています。しかし、従来のフォノニック結晶ではその動作を外部から電気的に制御することが困難であったことから、動的デバイスとしての応用は限定されていました。今回、我々は振動特性の電気的制御が可能なMEMS共振器をフォノニック結晶の基本素子として用いることにより、フォノンの伝搬を電気的に制御することに世界で初めて成功しました。

2.研究の成果

 NTT物性科学基礎研究所がフォノン伝搬の電気的制御を可能にしたフォノニック結晶は、図1 のように、円形の薄膜振動部を有するMEMS共振器を、100個一列に並べたフォノニック結晶導波路で構成されています。
 このフォノニック結晶導波路中に、電極を設けた制御用MEMS共振器を組み込んだ構造を作製し(図2 )、電極に電圧を加えることによって発生するMEMS共振器の振動を利用し、フォノン伝搬のスイッチング制御(図3 )やエネルギー転送(図4 )に成功しました。
 本成果のように、フォノニック結晶においてフォノン伝搬の電気的な制御が可能になったのは世界で初めてのことです。

行った実験の説明

  1. <1> 導波路の右端から5.5 MHzの交流電圧を印加することで、圧電効果※4を介して弾性振動を導波路内に誘起しました。その伝搬の様子を空間的に測定し、弾性振動が導波路に沿って伝搬することを確認しました(図5 (a))。
  2. <2> 弾性振動の伝搬速度を様々な周波数において調べたところ、フォノニックバンドギャップ※5近傍において、伝搬速度が著しく低下するスローフォノン効果を確認しました(図5 (b))。
  3. <3> 導波路内に組み込んだ制御用MEMS共振器をその共振周波数で加振することにより、導波路に沿った弾性振動の伝搬を抑制することに成功しました(図3 )。
  4. <4> 導波路内に組み込んだ制御用MEMS共振器を導波路の周波数と共振器の差周波数で加振することにより、導波路から制御用MEMS共振器へ弾性振動の転送を実証しました(図4 )。

3.技術のポイント

(1) MEMS共振器アレイによるフォノニック結晶導波路の形成(図1 2 

 フォノニック結晶の周期構造に起因するフォノニックバンドギャップを用いることにより、フォノンを空間的に閉じ込めることや伝搬させることが可能となります。その一方で、フォノニック結晶におけるフォノンの伝搬を外部操作によって制御することは従来の技術では困難でした。NTT物性科学基礎研究所では、弾性特性の電気的な制御が可能なMEMS共振器をフォノニック結晶の基本素子として利用する独自のフォノニック結晶構造を考案し、フォノンの伝搬を外部から電気的に制御することに成功しました。

(2) フォノンの自在な制御を可能にするパラメトリック制御技術 (図3 4 

 弾性特性の電気的な制御には、デバイスの非線形弾性効果によるパラメトリック制御※6と呼ばれる技術を利用しました。同技術において、導波路中の制御用MEMS共振器に印加する交流電圧の大きさと周波数を調整することにより、弾性振動の抑制ならびに転送等、フォノン伝搬の多彩な制御が可能になります。

4.今後の展開

 本研究で実現された動的なフォノニック結晶を用いることにより、既存のMEMSセンサの検出感度向上や、信号増幅器や周波数変換器、分配器といったMEMSデバイスの多機能化が期待されます。このような応用に向けて、動的フォノニック結晶の高周波化あるいは高機能化の研究を進めていきます。さらにはフォノンの一種である熱も電気的に制御できる物質、つまり、電圧のオン・オフによって熱導体にも断熱材にも変質可能な新しい人工材料の実現も将来的に目指していきます。

論文掲載情報

D. Hatanaka, I. Mahboob, K. Onomitsu and H. Yamaguchi
“Phonon waveguides for electromechanical circuits”
Nature Nanotechnology, 9 (2014) (doi:10.1038/nnano.2014.107)
<URL>
http://www.nature.com/nnano/journal/vaop/ncurrent/full/nnano.2014.107.html 

用語解説

※1MEMS
 Microelectromechanical systems(マイクロ電気機械システム)の略。半導体微細加工技術を利用し作製する数ミリメートルから数マクロメートルサイズの微小な立体機械構造を有するデバイスを指します。近年では、微細化をさらに進めたナノメートルサイズのNEMS(Nanoelectromechanical systems)も、盛んに研究されています。
※2フォノニック結晶
 異なる弾性体がフォノン(音や振動、熱の媒体)の波長オーダーの長さで周期的に配列した構造。通常、半導体微細加工技術を用いて弾性体に周期的な孔を開けることにより作製されています。
※3フォトニック結晶
 屈折率が光の波長と同程度の長さで周期的に変調された構造のことを指し、電子ビーム露光などのナノ加工技術を用いてシリコンなどの誘電体を微細加工することによって作製されます。フォトニック結晶は光絶縁体として機能するため、通常の物質では不可能な強い光閉じ込めが可能となります。
※4圧電効果
 物体に電圧を加えると膨張・収縮する現象。この膨張・収縮によって物体の振動を電気的に引き起こすことができます。
※5フォノニックバンドギャップ
 フォノニック結晶のバンド構造において、フォノンの伝搬が禁止される領域。この領域では伝搬するフォノンの1/2波長がフォノニック結晶の周期間隔にほぼ等しく、干渉効果によるフォノンの反射が発生し、伝搬が著しく抑制されます。
※6パラメトリック制御
 外部からデバイスに歪みを加えることによって、周波数の異なるもう一つの振動のパラメーター(ここではバネ定数)を変化させ、振動の共振周波数を変調、もしくは、周波数の異なる新しい振動を誘起することができるようになります。
別紙・参考資料
図1 フォノニック結晶導波路 
図2 制御用共振器を含むフォノニック結晶導波路 
図3 弾性振動のスイッチング制御 
図4 弾性振動のエネルギー転送 
図5 弾性振動の伝搬とスローフォノン効果の観測 

本件に関するお問い合わせ先

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当
a-info@lab.ntt.co.jp
TEL 046-240-5157

Innovative R&D by NTT
NTTのR&D活動を「ロゴ」として表現しました

ニュースリリースに記載している情報は、発表日時点のものです。現時点では、発表日時点での情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承いただくとともに、ご注意をお願いいたします。

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