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NTT持株会社ニュースリリース

(報道発表資料)

2018年4月17日

日本電信電話株式会社
横浜国立大学

アト秒パルス光源を用いた世界最高速の電子振動現象および減衰過程の観測

 日本電信電話株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦博夫、以下 NTT)の増子拓紀主任研究員、小栗克弥主幹研究員、後藤秀樹主席研究員と横浜国立大学(神奈川県横浜市、学長:長谷部勇一)の千菅雄太工学府博士課程前期学生、片山郁文准教授、増田裕行工学府博士課程前期学生、武田淳教授は、クロム材料を添加したサファイア(Cr:Al2O3)物質内において、光を照射した際に、アト秒(10–18秒:100京分の1秒)周期で振動する電子運動の観測に世界で初めて成功しました。この電子の振動周期は667–383アト秒に達し、時間分解計測における世界最高速の振動応答です。この観測は、極短時間で煌めく単一アト秒パルスの短パルス化、および時間分解計測に用いる光学系の超高安定化により実現されました。さらに本研究では、物質内で混在する二つの材料(クロムとサファイア)間で、電子振動が異なった減衰時間(振動の継続時間)を有していることを初めて解明しました。これらの超高速の電子振動や減衰過程を解明することは、物質の新たな光機能性を創出する上で重要な知見になることが期待できます。また、将来の光デバイスの特性改善にもつながると考えられます。
 本成果は2018年4月18日(英国時間)に英国科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」にて公開される予定です。
 本研究の一部は、JSPS科研費「16H05987」および「16H02120」の助成を受けて行われました。

1.研究の背景

 可視近傍の光が持つ周波数は、1000兆ヘルツ(1015 ヘルツ:PHz)領域にまで達します(図1)。その光が物質に照射された場合、光電界により応答する電子の運動はとても速く、その振動周期はアト秒(10–18 秒:as)の時間領域に達します。この電子の光応答現象は誘電分極※1と呼ばれ、光と物質の相互作用に関わる根幹の物理現象です。この高速で運動する電子を「止まって見える」ように観測できるかは、如何に速いシャッター速度(=時間分解能)を実現できるかにかかっています。物質中に存在する電子の「動き」は、「一瞬だけ輝く」レーザー光(光パルス)をカメラのストロボのように使ってコマ撮りをします。この時、光パルスの時間幅(パルス幅)が短ければ短いほど、より高速の現象を捉えることが可能となります。
 過去にNTT物性科学基礎研究所(以下、NTT物性研)では、極短時間のパルス幅(660 as)を持つ単一化(孤立化)されたアト秒パルス光源※2を開発し[H. Mashiko et al., Nature commun. 5, 5599 (2014)、http://www.ntt.co.jp/news2014/1412/141216a.html]、窒化ガリウム(GaN)半導体内部で振動する電子運動(周期:860 as)の観測に成功しました[H. Mashiko et al., Nature Phys. 5, 741 (2016)、http://www.ntt.co.jp/news2016/1604/160411b.html]。本研究では、より高速の電子振動の計測を目指すと共に、さらなる未知の電子物性を調査するため、異なる材料が混ざり合う化合物内部の電子挙動の観測に挑戦しました。

2.研究の成果

 本研究では、単一アト秒パルスのさらなる短パルス化(パルス幅:192 as)を図り、さらに高安定化したポンプ・プローブ光学系(時間揺らぎ:23 as)を構築することで、クロム材料を添加したサファイア(Cr:Al2O3※3物質内で振動する電子運動(周期:667–383 as)の観測に成功しました。これは、時間分解計測における世界最速の振動応答です。さらに、物質内で混在する二つの材料(クロムとサファイア)間で、電子振動が異なった減衰時間(振動の継続時間)を有していることを初めて解明しました。これらの光応答現象の物理起源である電子振動を理解することは、物質の新たな光機能性を創出する期待に加え、発光素子(ディスプレイ・発光ダイオード)や光検出器(カメラ・受光センサー)等の効率改善に向けた研究に役立つ可能性が有ります。

実験の説明

  1. <1>単一アト秒パルス発生には、二重光学ゲート(DOG:Double Optical Gate)法を用います[H. Mashiko et al., Phys. Rev. Lett. 100, 103906 (2008)]。DOG法は、2波長(近赤外と紫外)の基本波を利用した二色合成ゲート法と、楕円偏光ゲート法を融合した光学技術です。本手法の特徴は、通常は連続的に発生してしまうアト秒パルス列を単一化(孤立化)することが可能であり、高い時間分解能を発揮できます。本実験では、極端紫外領域の単一アト秒パルス(中心光子エネルギー:42 eV、パルス幅:192 as)を発生し、プローブ光(検査光)として用いています。
  2. <2>近赤外領域フェムト秒パルス(10–15 秒:fs)をポンプ光(励起光)として、クロム添加サファイア(Cr:Al2O3)に照射したとき、多重の電子遷移が誘起されます(図2)。この電子遷移により生じる誘電分極は、電子の振動(双極子振動※4)を引き起こします。プローブ光(検査光)として単一アト秒パルスを時間掃引することにより、この電子振動をコマ撮りの様に観測します。本実験では過渡吸収分光法※5を用いて、単一アト秒パルスの吸光度(吸収率)の変化を利用し、電子振動の測定を行います(図3)。計測された波形は、二つのポンプ・プローブ光間の遅延に伴い振動周期が変化していることを示しています(図4)。この波形が持つエネルギー成分を解析した結果、ポンプ光の多光子励起(4–7次)により生じた電子遷移が、中間準位および伝導帯中で形成されていることを示しています(図5)。その振動周期は667–383 as(周波数:1.5–2.6 PHz)に達し、これは時間分解計測における最速の振動現象です(図6)。また、クロム(Cr)が形成する中間準位は、サファイア(Al2O3)が形成する伝導帯に比べて長い減衰時間を持つため、中間準位に属した電子の振動成分は、より長く継続していることが理解できます。

3.技術のポイント

(1)高安定のポンプ・プローブ光学系の構築(NTT物性研・横浜国立大学)

 ポンプ光(励起光)が誘起する電子遷移のエネルギーが大きいほど、電子の振動周期は短くなります。絶縁体であるAl2O3が持つバンドギャップ(価電子帯と伝導帯間のエネルギーギャップ)は極めて大きいため、誘起される誘電分極は非常に短い電子振動の周期を持ちます。それ故、超高安定なポンプ・プローブ光学系の構築が必要となります。本実験で構築した光学系は、12時間に渡る計測で23 asと非常に高安定化されており、相当する距離変位は10ナノメートル(10億分の1メートル:nm)程度まで抑制されています。

(2)DOG法による極端紫外単一アト秒パルス発生(NTT物性研)

 前述したDOG法を用いることで、アト秒パルスは単一化され、高い時間分解能を発揮することができます。また、光パルスは構成する光の波長が短ければ短いほど、パルスの時間幅を短くできる特性を持つため、前回のGaN半導体の実験[H. Mashiko et al., Nature Phys. 5, 741 (2016)、http://www.ntt.co.jp/news2016/1604/160411b.html]に用いた真空紫外(波長:200–40 nm)アト秒パルスよりも、より短波長である極端紫外(波長:40–4 nm)のアト秒パルス発生を行なっています。計測されたパルス幅は192 as(前回:660 as)に達するため、より高速の電子運動を瞬間的に捉えることを可能としています。

4.今後の展開

 光と物質の相互作用の根幹である電子振動を調査することは、反射・吸収・屈折・回折・光電流・光放射といった多種の光に関連する物理現象を解明する上で極めて重要です。これらの物理現象を解明することは、基礎的な物理起源に関して新たな知見を得ることに加え、すでに広く利用されている光検出器や発光素子などの光デバイスの効率、動作速度などの特性を飛躍的に向上させる可能性があります。

図1:光電界の周波数と電子振動の周期
図1:光電界の周波数と電子振動の周期
図2:Cr:Al<sub>2</sub>O<sub>3</sub>のエネルギー準位図
図2:Cr:Al2O3のエネルギー準位図
図3:過渡吸収分光法
図3:過渡吸収分光法
図4:電子振動の計測結果(Cr:Al<sub>2</sub>O<sub>3</sub>)
図4:電子振動の計測結果(Cr:Al2O3
図5:電子振動が持つエネルギー成分
図5:電子振動が持つエネルギー成分
図6:電子振動(4-7次成分)と減衰過程
図6:電子振動(4-7次成分)と減衰過程
図7:ポンプ・プローブ光学系
図7:ポンプ・プローブ光学系

論文掲載情報

H. Mashiko, Y. Chisuga, I. Katayama, K. Oguri, H. Masuda, J. Takeda, and H. Gotoh, “Multi-petahertz electron interference in Cr:Al2O3 solid-state material” Nature communications (2018)

用語解説

※1誘電分極(または分極)
 誘電分極は、主に電子分極、イオン分極、配向分極、空間電荷分極に分類されます。本実験では、電子の動きに起因する現象のため、電子分極に属します。電子は、外部から与えられる電界(光電界を含む)により運動します。この動きは、物質の内部にプラスの電荷に偏った部分と、マイナスの電荷に偏った部分を生じさせます。正負の電荷が対となって存在する状態を、双極子(電気双極子)と呼びます。
※2単一アト秒パルス光源
 (アト秒 10–18秒:as)の時間幅を持つ単一化(孤立化)された光パルスのことを指します。アト秒パルスは、真空紫外領域以下の波長(100 nm以下)において発生します。現在、最も極短時間で煌めく閃光であり、最先端の光パルスです。
※3クロム添加サファイア(Cr:Al2O3
 サファイア(Al2O3)は、アルミニウムの酸化物から成る構造物質です。価電子帯と伝導帯とのギャップが大きく、電気を通さない絶縁体に属しています。高い硬度を持ち、光学的な損傷にも強い安定した材料です。高濃度のクロム(Cr)添加することにより、ルビーレーザーの光学結晶として利用されることもあります。本実験では、クロム材料の特性を生かし、サファイア内部に中間準位を形成させています。
※4双極子振動
 一般に、大きさの等しい正負の電荷が対となって存在する状態を(電気)双極子と呼びます。光を物質に照射した際に、光により励起された電子と電子の抜けた殻(ホール)がちょうど正負の対となり、双極子を形成します。双極子が時間的に変動すると、電荷の加速度運動により、入射された光電界に影響を与え、吸収の増減に寄与する現象を引き起こすこともできます。
※5過渡吸収分光法
 物質が光を吸収する強さを時間分解計測する手法です。通常、ポンプ光(励起光)とプローブ光(検査光)の2つのパルス光を用います。初めに、ポンプ光を物質に照射し、物質中の現象を引き起こします。次に、任意の時間を遅らせたプローブ光を物質に照射し、プローブ光の吸光度(吸収率)を各時間において計測します。本実験では、「近赤外フェムト秒パルス=ポンプ光」、「単一化された極端紫外アト秒パルス=プローブ光」の役割を担っています。

本件に関するお問い合わせ先

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当
e-mail: science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
Tel:046-240-5157

横浜国立大学

総務企画部学長室 広報・渉外係
e-mail: press@ynu.ac.jp
Tel:045-339-3027

横浜国立大学

研究推進機構
e-mail: tsumura-akiko-bv@ynu.ac.jp
Tel:045-339-3213

ニュースリリースに記載している情報は、発表日時点のものです。現時点では、発表日時点での情報と異なる場合がありますので、あらかじめご了承いただくとともに、ご注意をお願いいたします。

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