グローバルスタンダード最前線

デジタルトランスフォーメーション時代に生き残るためには ―― 標準化機関TTCから見た技術トレンドと課題

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金子 麻衣(かねこ まい)

NTT東日本

一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)は、総務省認定の標準化機関として30年以上にわたり情報通信分野における標準の作成やその普及に貢献してきました。情報通信を取り巻く環境が、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展など劇的に変化する中で、TTCに求められる役割も変わりつつあります。グローバル市場における日本企業の現状と課題を示すとともに、今後のビジネス戦略の参考としていただくために、最新の技術トレンドとTTCの取り組みについて解説します。

  • 現、一般社団法人情報通信技術委員会

TTCの概要

TTCとは

一般社団法人情報通信技術委員会(TTC)は、総務省により認定された情報通信分野における標準化機関です。情報通信ネットワークにかかわる標準を作成することにより、情報通信分野における標準化に貢献するとともに、その普及を図ることを目的とした団体です。
TTCは会員制度を採用しており、現在、NTTグループをはじめとする情報通信分野、IT関連企業等98社が参加しています。会員になると、専門委員会に参加して標準化活動を行うことができるほか、セミナーやイベントに無料もしくは特別料金で参加することが可能です。専門委員会活動やイベント等を通じて、会員企業どうしの交流も活発に行われています。

専門委員会を通じたTTCの標準化活動

総務省電気通信システム委員会の決定により、ITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector)*1の全SG(Study Group)*2(SG3とSG9を除く)とTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group)*3に対して、日本からの寄書(提案文書)の事前審議を行い、日本の対処方針案を作成するとともに、必要に応じて日本寄書の提案を電気通信システム委員会に対して行うアップストリーム活動を付託されています。また、ITU-Tの勧告A.5*4、A.6*5によりITU-T勧告が標準文書を参照できる組織として認定を受けるとともに、ITU-TとTTCとの間での情報交換ができる関係の組織として認定されており、これらの一連の活動はTTC内の専門委員会が行います。
通信網のレイヤ構造に基づく5つの技術領域に対し、18の専門委員会が組織され、技術分野やテーマ別に、最新の技術分野・テーマについて情報収集を行うとともに、標準化に関連する議論を行っています。専門委員会以外に、サブワーキング(SWG)、アドホックグループ、連絡会があります(図1)。

TTCの標準化事例

2018年に勧告化(標準化)された、標準化事例を2つ紹介します。1番目は、イマーシブテレプレゼンス技術「Kirari!」のILE(Immersive Live Experience)で、スポーツ競技やエンタメ系公演等を遠隔地へリアルタイムに伝送し、超高臨場感ライブ体験を実現する技術です。日本からの提案で、サービスシナリオやフレームワーク等が標準化されました。2番目は、宇宙線が主たる原因で発生する地上の通信装置の誤動作であるソフトエラー対策に関する設計・試験・評価の方法および品質基準を定めた国際標準です。ソフトエラーとは、永久的にデバイスが故障するハードエラーではなく、デバイスの再起動等によって回復する一時的な故障のことです。ソフトエラーの原因となる中性子を発生させる施設ができたことで、通信装置への影響を測定できるようになり、設計や評価指標が求められていました。そこで、日本から積極的に提案をして、「標準は従うものではなくつくるもの」という戦略を体現した事例となります。

図1 TTC専門委員会一覧

図1 TTC専門委員会一覧

標準化の意義

ビジネスから見た標準化のメリット

標準化は、ビジネス戦略の一環で多くのメリットをもたらします。企業側は標準化によって、互換性・整合性が担保されるため、生産効率の向上を図ることができます。また、規格化されたことで量産化と単純化が進み、コスト削減につながります。さらに、標準化技術をいち早く取り入れることで、先行者利益につながり、ライセンス収入等も見込めます。最終的には、技術やビジネスモデルが普及することで競争力が向上し、ビジネスパートナーにも恵まれ、結果的に関係者全員が利益を得ることができるエコシステムを構築することも可能です。
このように、市場がオープンになることで社会的には貿易が促進し、環境や基準を満たすよう定めることで安心と安全性の向上にもつながります。ユーザにとっても、安全性が担保されるのはもちろんのこと、標準化された仕様によってさまざまな企業が参画し、多様な商品が市場に出回ることで選択の幅も広がります。まさに標準化は三方良しの戦略なのです(図2)。

標準化の戦略的な使い分け

標準はデジュール、フォーラム、デファクトの3つに分類され、目的によって戦略的な使い分けが必要です。
(1) デジュール
デジュールは、ITUに代表的される公的機関により定められた標準で、TTCもデジュールに分類されます。グローバル市場と開発途上国への影響力が絶大ですが、各国の主管庁が関与することから、場合によって審議調整に時間がかかることがあります。
(2) フォーラム
フォーラムは、複数の企業で結成され、スピーディな標準策定が可能になります。代表例はIETF(Internet Engineering Task Force)*6、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)*7やW3C(World Wide Web Consortium)*8です。先進企業中心の力関係によって標準化が影響されるので、小規模企業や開発途上国には不利な側面があります。
(3) デファクト
デファクトは、Windows OSに代表されるように、膨大なリソースをかけて市場に広めていく事実上の標準化です。標準化によって市場にオープンにする協調領域と、競争力向上の観点で標準化しない競争領域のバランスを考慮して、戦略的に標準化を行うことが重要です。

役割が拡大する標準化

市場が成熟し、顧客ニーズが多様化した現代において、革新的なサービスをつくりあげることは一段と難しく、ICTの発展で加速する時代の変化についていくことは容易なことではありません。今までは自社の経営資源を活かした技術開発から標準化を実現し商品化をするという流れでしたが、自社単独でのサービス創出に限界を感じ、企業の枠を超えてともにサービスをつくり上げていくオープンイノベーションを志向し、利用者の課題やあるべき姿からサービスを考えるユーザ起点の開発体制にシフトしています。これにより、TTCの役割も技術だけでなく、マーケティング面から企業を支援する活動に変化しています(図3)。

図2 ビジネスから見た標準化のメリット

図2 ビジネスから見た標準化のメリット

図3 役割が拡大する標準化

図3 役割が拡大する標準化

情報通信を取り巻く環境

企業に求められるDX&SDGs

IoT(Internet of Things)、ビッグデータ、AI(人工知能)等社会のあり方に影響を及ぼすテクノロジの進化で異業種連携などが加速し、産業構造の転換も著しく、既存事業のデジタル化のみならずデジタルを活用したビジネスモデルの転換を意味する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が進展しています。また、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)の達成は、グローバル市場の共通認識となっており、日本企業にとっても、達成に向けた活動の推進が急務となっています(図4)。

グローバル市場における日本企業の現実

グローバル市場における日本企業の現状は厳しい状況にあります。30年前、世界時価総額ランキング上位50位中、日本企業が32社を占めていましたが、2018年はトヨタの1社のみで、逆に米国が32社を占めています(表1)。IT系企業が上位に並び、中国企業の台頭も明らかです。

CES2019にみるトレンド

米国ラスベガスで開催している世界最大規模の家電見本市CES(Consumer Electronics Show)2019では、イノベーションアワードの受賞で韓国のサムスンが他を圧倒しました。日本は、展示ブースの出展も含めて存在感はほとんどありませんでした。会場には既存技術を組み合わせたものが目立ち、日本で少し前に流行したロボットや美容家電にセンサを付け足したようなプロダクトが多数出展されていました。何もイノベーション=最先端技術というわけではありません。既存技術の組み合わせや焼き直しで上手に見せることも、イノベーションといえるのです。

ITU-T参加企業の動向

デジュール標準の代表格であるITU-Tの会員が急上昇しています。量子通信、デジタル通貨、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)、OTT(Over The Top)など従来のIT通信系が半分以上を占める中、保険会社や自動車等の異業種も加入し、参加企業種別の範囲が拡大しています。2017年以降の日本の加入は4社(キヤノン、村田製作所、ソフトバンク、IIJ)ですが、中国は13社、米国は15社と桁が違います。ITU-Tの国別寄書数では、中国からの寄書が27%でトップ、次に韓国11%、米国10%、日本4%と続きます。中国は企業だけでなく政府も積極的に活動に参加しています。

世界のSDGs対応

世界のSDGs対応でリーダー的な企業50社に日本は選ばれていません。米国が圧倒的に多く、ヨーロッパで半数,アジアでは香港、シンガポールの企業が含まれています。業種では医療系、インフラ、化学メーカが多くなっています。SDGsの取り組みでも日本は後塵を拝しており、SDGsのルールづくりは、欧米を中心に進行していくといわざるを得ません。

図4 企業に求められるDX&SDGs

図4 企業に求められるDX&SDGs

表1 世界時価総額ランキング比較

表1 世界時価総額ランキング比較

2019年度重要技術分野と取り組み状況

TTCでは、ITU-Tの動向を常にウォッチしています。ITU-Tは、「Smart ABC(AI-Banking-Cities): ICTを革新的に利用して生活の質、サービスの効率性、競争力を向上させていく」というスローガンを掲げ標準化を推進しています。標準化ホットトピックは、①光ファイバの新しい規格、②5G、③OTT事業者とネットワーク事業者の連携フレームワーク等、④ビデオストリーミング等のQoS(ネットワーク品質)とQoE(ユーザ体感品質)、⑤パーソナルヘルス実現に向けた相互運用性、⑥スマートシティ実現に向けたKPI(Key Performance Indicator)の6つです。
今後、ITU-Tでも議論か本格化すると想定されるトレンド(コネクティッドカー、量子通信・暗号、デジタル通貨・ブロックチェーン、AI、Network 2030 beyond 5G)にも着目し、専門委員会でさまざまな活動を行っています(表2)。

表2 ITU-TのトレンドとTTCの活動

表2 ITU-TのトレンドとTTCの活動

サービス革新のためのイノベーション研究会

日本企業が時代の変革に対応できる人材を育成する一助になればと、オープンイノベーション的アプローチで革新的サービスのユースケースを創出する実践的な研究会を立ち上げました。全5回のプログラムは、サービス創出過程で必要なアイデアを生み出す思考法を身に付けるとともに、ユーザ視点でサービスを開発・提供する企業のキーマンからイノベーション事例を聞いたり、異なる組織に属する参加者との協働を通じたオープンイノベーション体験からなります。本施策は、拡大する標準の役割に対応するために2018年から始めた試みです。

最後に

日本企業はグローバル市場において、競争力とSDGs対応の両方の観点で遅れをとっていると言わざるを得ません。革新的サービス開発、グローバル市場への展開、異業種のキャッチアップやオープンイノベーションの推進に、TTCを活用いただければ幸いです。ここでは紹介できなかった標準化に関する情報や、最新技術情報等詳細は、TTCホームページ(1)をぜひご覧ください。

■参考文献
  • (1) https://www.ttc.or.jp/

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