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超伝導量子ビットによる高感度・高空間分解能電子スピン共鳴に成功 ―― マイクロメートル領域での電子スピンの高感度検出

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NTTは、超伝導磁束量子ビットを用いて少数電子スピンを含む微小体積の試料に対して分析を行える電子スピン共鳴の実証に成功しました。
電子スピン共鳴は物質中の電子スピンの性質を調べるための分析手法の1つで、分子構造の解析等に広く使われています。しかしながら、通常の電子スピン共鳴装置で分析を行うには1013個程度の大量の電子スピンを含んだ試料が必要で、試料の体積も数ミリリットル(〜[1 cm]3、一辺1 cmの立方体)程度必要です。そのため、分析を行える試料には制限があります。
超伝導磁束量子ビットは高感度な磁場センサとして機能します。今回の成果は、この磁場センサで小さな磁石としての性質を持つ電子スピンを検出することで電子スピン共鳴が行えることを示したもので、0.05ピコリットル(〜[4μm]3、一辺4μmの立方体)の試料中の400個程度の電子スピンを検出可能です。微小体積中に少数スピンを含む試料に対する新たな電子スピン共鳴法を開発したことは、材料分析の手法として基礎科学分野から材料評価・生体分析・医療応用まで、幅広い分野に貢献すると考えられます。

技術のポイント

(1) 超伝導磁束量子ビットによる感度向上
超伝導磁束量子ビットは高感度磁場センサとしてよく使われている超伝導量子干渉素子(SQUID)よりも1000倍程度高い感度を持ちます。電子スピン共鳴装置の感度は測定装置等によるノイズの大きさと検出した信号の大きさを比較することで定量化しますが、実験に用いた装置のノイズを評価し、1秒間の信号を平均化することで400個程度の電子スピンを検出できることが分かりました。
(2) 超伝導磁束量子ビットによる空間分解能向上
超伝導磁束量子ビットのループサイズの大きさは設計で自由に変えることが可能です。NTTで行った電子スピン共鳴の空間分解能は、超伝導磁束量子ビットのループサイズで決まっているので、そのサイズを小さくするだけで空間分解能を向上できるという特徴があります。今回は、ループ構造の大きさが24×2マイクロメートル程度の素子を用いて実験を行い()、0.05ピコリットルの検出体積を実現しましたが、さらなる小型化による空間分解能の向上も可能です。
(3) 磁化検出型電子スピン共鳴による2軸掃引
通常の電子スピン共鳴装置は、試料を共振器に入れ、その共振周波数に固定したマイクロ波を照射し、磁場を掃引した際の信号強度の変化を測定することで電子スピン共鳴を行います。そのため、共振器の共振周波数以外で電子スピン共鳴を行うことは困難です。それに対し、NTTでは超伝導磁束量子ビットを磁場センサとして用いることで共振器を使わずに電子スピン共鳴を行います。そのため、照射するマイクロ波周波数には制限がなく、磁場とマイクロ波周波数の2つのパラメータを掃引した電子スピン共鳴を行うことが可能です。2軸の掃引を行うことでより広い範囲での電子スピン共鳴スペクトルが取得できるため、材料パラメータの精緻化が可能になります。

図 超伝導磁束量子ビットの電子顕微鏡写真

図 超伝導磁束量子ビットの電子顕微鏡写真

今後の展開

今後は実験系や素子の最適化等により電子スピン共鳴のさらなる高感度化をめざします。また、超伝導磁束量子ビットのアレイ化により電子スピン共鳴イメージングをめざします。

◆問い合わせ先
 NTT先端技術総合研究所
  広報担当
  TEL 046-240-5157
  E-mail science_coretech-pr-mlhco.ntt.co.jp
  URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1903/190329b.html

研究者紹介

超伝導量子技術の極限計測への応用

樋田 啓

NTT物性科学基礎研究所
量子電子物性部 超伝導量子回路研究グループ

樋田啓

これまで、私たちの研究グループでは量子プロセッサ(超伝導磁束量子ビット)と量子メモリ(電子スピン)との間で量子情報をやり取りする研究を行ってきました。この研究では、量子情報を蓄える媒体として電子スピンを用いましたが、超伝導磁束量子ビットを磁場センサとして動作させることで、電子スピンの性質を探ることも可能になります。
本研究では、超伝導磁束量子ビットを高感度な磁場センサとして動作させ、試料に含まれる電子スピンの性質を電子スピン共鳴という手法により調べました。電子スピン共鳴の適用範囲は物理学のみならず、化学・生物学・地学等にも及びますが、通常の電子スピン共鳴装置では多くの電子スピンを含むmm以上のサイズの試料を分析対象とします。今回の成果は、少数のスピンしか含まないμm程度の試料で電子スピン共鳴による分析が可能であることを示したもので、電子スピン共鳴の適用範囲を大きく広げることになります。
本研究で用いた試料は結晶中の不純物由来の電子スピンという「硬い」材料でしたが、測定対象とする試料に原理的な制約はありません。超伝導磁束量子ビットで測定できる試料の大きさは10 μm程度が典型的な値で、これは細胞の典型的な大きさと同程度です。この特徴を活かし、今後は単一細胞内の金属イオンの状態を超伝導磁束量子ビットによる電子スピン共鳴で調べるなど、「やわらかい」材料の測定にも取り組んでいきたいと考えています。

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