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光変調器を省エネ化し、高速高効率な光トランジスタを実現

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NTTは、世界最小の消費エネルギーで動作する光変調器と光トランジスタを実現しました。
従来、光変調器や受光器のような光−電気変換デバイスは高い電気容量を持つため、消費エネルギーが高く、光と電子回路が緊密に連携した信号処理を行うことは困難でした。本研究グループは、フォトニック結晶と呼ばれるナノ構造技術を用いて、世界最小の電気容量を持つ光電変換素子の集積に成功しました。この技術により、世界最小の消費エネルギーで動作するナノ光変調器や、光入力信号を別の光へ変換・増幅出力させる「光トランジスタ」を実現しました。このようなナノスケール光電子集積によって、光による高度な信号処理技術をプロセッサチップの中へ導入することが可能となり、CMOS技術と連携した高速なコンピューティング基盤の実現が期待されます。

研究の成果

(1) 世界最小動作エネルギーを持つナノ光変調器の実現
フォトニック結晶による微小な光ナノ共振器を用いて、超小型のナノ光変調器を作製しました。40 Gbit/sの高速な電圧信号入力に追従する明確な光変調出力が観測され、このときの消費エネルギーは、現存するさまざまな材料や構造の光変調器の中でも最小〔1ビット当り42 aJ(アトジュール)〕であることを確認しました。
(2) 超低容量のO−E−O変換素子の実現
同一のフォトニック結晶上にナノ光変調器とナノ受光器を形成し、近接集積することで、超小型のO−E−O変換素子を作製しました()。動作実験では、ナノ受光器に入力された10 Gbit/sの高速な光信号がまず電流となり、さらに負荷抵抗を介して電圧信号へと変換されます。この電圧信号をナノ光変調器に与えることで、別波長の光に信号波形を転写することができます。これにより、光非線形動作の1つである、光信号の波長変換動作を実現しました。このとき必要な光制御エネルギーは1ビット当りわずか1.6 fJ(フェムトジュール)であり、従来のO−E−O変換素子に比べて2桁以上の低減を達成しました。また、動作速度とRC時定数の対応から、この集積による電気容量がわずか2 fFであることを確認しました。これは世界で初めてfF(フェムトファラッド)レベルの光電子集積に成功した成果です。
(3) 信号利得を持つ省エネの光トランジスタ動作の実現
上記の光波長変換動作では、制御光の入力強度よりも被制御光の出力強度を2倍以上高めることができました。これは光信号の入出力において信号利得が得られたことを意味し、「光トランジスタ」に相当する動作を実現したことになります。従来のO−E−O変換素子では、このような動作における小型化・省エネ化は困難でした。また、利得があることで、この光トランジスタを多段に接続することも可能となり、将来的に高密度な集積による光信号処理が期待されます。

図 フォトニック結晶による受光器-光変調器集積型の光トランジスタ

図 フォトニック結晶による受光器-光変調器集積型の光トランジスタ

今後の展開

今回実証されたナノ光変調器およびO−E−O変換型の光トランジスタは、従来技術に比べて圧倒的に小型で低消費エネルギーであることから、従来「信号伝送」にとどまっていた光技術を「信号処理」にまで適用する道筋になり得る技術です。例えば、多数のCMOSコア間でキャッシュ情報を共有するため、光トランジスタを中継器とした小型で省エネの光ネットワーク処理が期待できます。また、光ニューラルネットワークをはじめ光による機械学習が近年活発に研究されており、その中で光トランジスタは光領域でニューロンを構成するなどの役割が期待できます。
近い将来、サイバーフィジカルシステム(CPS)と呼ばれるような、IoT(Internet of Things)などの現実空間からのデータ情報とサイバー空間を介在し、リアルタイムで分析やフィードバック処理を行うシステムが必要と考えられています。現在のCMOSテクノロジのように並列処理に依存するだけでは高度なリアルタイム処理は難しく、今回実現されたような光電子集積技術をプロセッサチップ内で駆使し、低遅延で低消費エネルギーの情報処理を実現する必要があります。NTTでは、本成果である低容量の光電融合技術を活用して、このような次世代の情報処理基盤の構築をめざします。

◆問い合わせ先
 NTT先端技術総合研究所
  広報担当
  TEL 046-240-5157
  E-mail science_coretech-pr-mlhco.ntt.co.jp
  URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1904/190416a.html

研究者紹介

ナノフォトニクスが未踏の光情報処理技術を開拓する

野崎 謙悟

NTTナノフォトニクスセンタ/NTT物性科学基礎研究所
特別研究員

野崎謙悟

「光コンピュータ」はおよそ半世紀も前から光分野の研究者がめざすゴールの1つでしたが、CMOS電子回路技術の台頭によって、常に有意性を見出せずにきた苦い歴史があります。しかし近年、デジタル処理に限らず、機械学習をはじめとするアナログ処理でも光を利用する価値が見直されており、CMOS技術とナノフォトニクスを連携させた光情報処理のかたちが徐々に見えつつあります。
私の研究では、フォトニック結晶と呼ばれるナノ構造を利用して、従来になく小型で省エネルギーの光デバイスを創り、そのような未踏の情報処理技術に寄与したいと考えています。その中で今回の成果では、光電変換デバイス(光変調器 = E−O変換、受光器 = O−E変換)の電気容量を極限的に低減させることで、信号増幅を必要としないシームレスな光電子融合ができることを示し、また、光トランジスタのような光領域での信号処理に向けたデバイスが実現できました。これらは「CMOSによる処理/光による伝送」というこれまでの役割の境界をシフトさせるような技術と考えています。
このような成果は、NTT研究所で培われた高度なデバイス作製技術を元に得られたものであり、日頃より協力をいただいているチームメンバに深く感謝します。今後、デバイス技術にとどまらず、より具体的な情報処理技術として光の優位性を示せるよう、研究を進めていきます。

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