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通信ビル向け高電圧直流給電用リチウムイオン電池の開発

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NTTファシリティーズは、通信ビルやデータセンターで採用されている高電圧直流(HVDC)給電システム用のリチウムイオン電池を開発しました。従来停電バックアップ用として使用してきた制御弁式(シール)鉛蓄電池よりも設置スペースを削減でき、また、放電可能時間の算出や警報機能など便利な機能を有します。同時に、通信ビル導入時に要求される高い耐震、EMC性能目標を達成しました。ここでは、安全性、信頼性、そして利便性に優れたリチウムイオン電池の開発について紹介します。

リチウムイオン電池の概要

NTTファシリティーズは、全国の通信ビルにおいて約20万台の装置の構築、維持、管理を行い、24時間365日、ICTインフラ環境を支えてきました。その装置構成は、受変電装置、非常用発電装置、空調装置、無停電電源装置、監視装置などありますが、ICT装置への給電信頼性を保つ重要な要素となっているのがバックアップ用の蓄電池です。
現在、バックアップ用蓄電池として普及しているシール鉛蓄電池は、流通量が多く材料も安価であることから価格が安いことが特徴です。一方、他の蓄電池と比較して大型で重いため、設置するにはある程度のスペースと床の耐荷重が必要となり、設置場所が限定されるという問題点がありました。
そこで注目したのが小形・軽量・高電圧・高エネルギー密度のリチウムイオン電池の活用です。近年、モバイル機器やEV(電気自動車)を中心に急速に導入が拡大しているリチウムイオン電池とは、主にリチウムイオンの移動を利用して充放電を行う二次電池の総称となります。リチウムイオン電池は、正極と負極の間にある電解質を介して、リチウムイオンが正極から負極へ移動すると充電、負極から正極へ移動すると放電を行うことができます(図1)。リチウム(元素記号:Li)は原子量6.941のアルカリ金属元素の1つです。正極にはそのリチウム化合物であるLiCoO2、LiMn2O4や三元系と呼ばれるLi(Mn-Co-Ni)O2、その結晶構造に呼称が起因するオリビン型と呼ばれるLiFePO4など、負極には炭素系材料、電解質には有機系材料が一般的に使用され、材料の選択幅が広いことも特徴です。そのため、用途に適した電池を提供できることも導入が拡大した要因の1つと考えられます。
一方、リチウムイオン電池には発火・発煙等の安全に関する懸念がつきまといます。リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高い点や電解質に危険物第4類第2石油類が使用されている点から、電池の異常時(主に製造不良等)や使用者の使い方に問題があった場合、発煙・発火に至る可能性があります。そのため、リチウムイオン電池にはさまざまな安全対策が施されています。代表的な例として蓄電池管理装置があげられ、電池の状態監視から電圧値の調整まで行うことで、システム的に保護しています。その他、公的な安全性規格の制定等規制面での対策も施され、社会的にも安全性への関心の高さが伺えます。

図1  LIB充放電イメージ

図1  LIB充放電イメージ

HVDC給電システム

NTTグループでは、通信ビルやデータセンターの省エネ化施策の1つとして、商用の交流200 Vを直流380 Vに変換してICT装置に給電する、高電圧直流(HVDC)給電システム(図2)の導入を拡大しています。情報通信用の給電システムとして、通信ビルでは従来直流48 Vの給電システムを使用していましたが、近年のICT装置の消費電力増大に伴い、給電経路に流れる電流も大きくなるにつれ、使用する給電ケーブルが多条、太径化し、ケーブル敷設時の施工性の悪化や使用材料の増加に伴う材料費の高騰が懸念されてきました。また、一般のデータセンターでは、商用電力を一度直流に変換し、停電バックアップ用の蓄電池を接続して再度交流に変換する交流給電方式が主流となっていますが、電力の変換段数が多く電力損失が大きくなる傾向にあること、蓄電池からICT装置の間に故障要素となる変換器が入ることで、給電の信頼性が下がる傾向にあることなどの問題点があり、通信ビルのように省エネで高信頼の給電が求められる場合は何らかの対策を要することになります。その両給電システムの課題を解決するのがHVDC給電システムです。直流48 V給電システムの給電電圧を380 Vまで上げることで、定電力特性を有するICT装置の入力電流を下げることができ、ケーブルを細くすることが可能となります。また、直流380 Vの給電ラインに蓄電池を直接接続することで蓄電池からICT装置までの故障要素を排除し、停電時に高信頼の給電を継続することができます。電力の変換段数も、従来の直流48 V給電システムと変わらず、変換損失の低い給電を実現することができます。

図2 HVDC給電システム

図2  HVDC給電システム

HVDC給電システム用リチウムイオン電池の開発

HVDC給電システムの停電バックアップ用蓄電池は、従来の直流48 V給電システムと同様、シール鉛蓄電池が使用されています。HVDC給電システムの整流装置は、給電電圧を上げることで出力電流を下げ、電流の二乗と給電経路の抵抗の積で示される内部電力損失を低減でき、同じ給電電力において直流48 V給電システムの整流装置より小形化することができました。
一方、HVDC給電システムで使用されるシール鉛蓄電池は、直流48 V給電システムと容量が変わらないため、設置スペースも変わらず、設置場所を選ぶという問題点も依然として残ります。今後もICTの使用分野の拡大が予想され、それに伴い消費電力が増大することで、蓄電池の設置スペースの確保が大きな課題となります。そこで、蓄電池の設置スペース削減と設置自由度の向上を目的として、NTTファシリティーズではHVDC用リチウムイオン電池の開発に着手しました。
リチウムイオン電池はシール鉛蓄電池と比較して、小形・軽量という特長があり、設置スペースの削減や床荷重制約の軽減ができます。また、シール鉛蓄電池と比較して、HVDC給電システムとして使用できる容量の最小単位が小さく、負荷が必要とするバックアップ容量に応じて設置容量を細かく刻むことができ、過不足のない適切な容量の選定が可能となります。リチウムイオン電池の適用により、設置場所の自由度が大幅に向上することが期待できます。
また、リチウムイオン電池は、万一の破裂や発火を防ぐために、電池の電圧や温度を監視する機能を有します。その機能を活用し電池の運用情報を取得することで、電池の充電状態や劣化状態の推定が可能です。例えば、現在の給電電力に対して残りの給電可能な時間を算出する、あるいは、経年劣化により低下した現在の容量を把握し、蓄電池更改の時期を推定するといった、利便性の高い運用を行うことができます。そのほかにも、リチウムイオン電池の異常発生時、異常の内容を自己判定して警報として発出し、その異常がリチウムイオン電池の運転継続可能なレベルを逸脱した場合は、保護のため給電システムから自動的に切り離す保護機能があるなど、安全に保守運用できる機能を具備しています。
NTTファシリティーズは2006年からリチウムイオン電池に関する研究開発を行っており、小形化や難燃化、長寿命化に関する技術を蓄えてきました。また、ユーザ側の視点から電池の監視計測データをどのように運用に活用するかを考え、情報通信用給電システムの安全性、利便性向上に関する検討を行ってきました。近年では、EVや産業用リチウムイオン電池の普及が進み、多くのメーカが小形、低価格、安全性に優れた製品を市場に展開し始めています。現在は、これまで培った技術を用いて、それら市販品をベースとした情報通信用リチウムイオン電池を開発しています。情報通信用の給電システムにはまず給電の信頼性が求められます。そこで、市販リチウムイオン電池の電気回路や制御回路の構成を見直し、重要機能の冗長化や不要部品の削減を行うことで、給電信頼性の向上を図ります。また、安全性を担保するために、ベースとなる市販の蓄電池セルやモジュールについてはJIS C 8715-2を中心とした安全性規格への適合状況を確認し、蓄電池あるいは給電システムとしては、実機を用いた通常運用条件での試験、および短絡事故や地絡事故等のアブノーマルな事故の発生を想定した試験を実施し、発煙や発火がなく安全に運用できることを確認します(1)。また、施工性や保守性を考慮し、安全に設置、撤去工事ができ、かつメンテナンス時も給電を継続できる実装、構成を仕様に定めました。最後に、通信ビル導入の際に必要となるNTTの規格に沿った耐震性能やEMC(ElectroMagnetic Compatibility)*1性能の確認を行い、周囲環境の影響を受けての誤動作がないことや、運用時に周囲装置に不要な影響を与えないことの確認を必須の評価項目として設定しました。
NTTファシリティーズは通信ビル導入の第一ステップとして、メーカ市販品ベースの最小容量単位のHVDC用リチウムイオン電池を開発しました。本品はHVDC給電システムに合わせた充放電電圧となっており、満充電状態下の放電で16 kWhの出力が可能です。セル*2やモジュール*3はメーカの市販品を採用し、それ以外の電気回路、制御回路については、給電の信頼性を向上するために制御電源構成の冗長化等、一部変更を加えています。監視計測機能はメーカ標準機能をベースに保守運用に必要な項目を追加しています。前述の各種試験を行い、不要な装置停止がないこと、非常時には安全に給電システムから切り離される保護機能が動作することを実機試験により確認しました。また、耐震性能はNTTドコモの耐震規格R12相当(図3)、EMC性能はNTTのEMCに関する各テクニカルリクワイヤメントの規定を満足することを確認しました(2)(3)(図4)。同製品は通信ビルに導入し、現在も稼動中です(図5)。

図3 耐震試験

図3  耐震試験

図4 EMC試験

図4  EMC試験

図5 HVDC用リチウムイオン電池

図5  HVDC用リチウムイオン電池

今後の展開

NTTファシリティーズは、16 kWh級の小容量HVDC用リチウムイオン電池を開発しました。同蓄電池は情報通信用として使用するための高い信頼性、安全性を有するだけでなく、監視計測機能や容量監視機能等の利便性に優れた機能を有しています。今後は、蓄電池の容量を拡大し、より大規模のICTシステムに対して停電バックアップが可能なリチウムイオン電池の開発をめざします。今回開発したHVDC用リチウムイオン電池を多数並列接続して使用することになるため、設置スペースを削減しつつ信頼性を維持する集約方法の確立や短絡電流対策等安全性の確保、通信量削減のための監視計測項目絞り込み等、新たな課題が想定されます。それらの課題を解決し、信頼性、安全性、利便性に優れたリチウムイオン電池を開発していきます。

■参考文献

◆問い合わせ先
 NTTファシリティーズ
  研究開発部 ファシリティ部門
  エネルギーソリューション担当
  TEL 03-5669-0763
  FAX 03-5669-1650
  E-mail matsum86ntt-f.co.jp

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