つくばフォーラム2019 基調講演

社会インフラの共用化に向けて

PDFダウンロードPDFダウンロード

NTT代表取締役副社長 井伊基之

本稿では、NTTグループが取り組んでいる「社会インフラの共用化」の実現に向けた、社会的課題の解決策や具体的な取り組みについて紹介します。本記事は、2019年10月31日〜11月1日に開催された「つくばフォーラム2019」での、井伊基之NTT代表取締役副社長の講演を基に構成したものです。

井伊 基之(いい もとゆき)

NTT代表取締役副社長

はじめに

人類は、経済発展が進むに連れて環境への負荷を与え続けています。これは今日でも変わらず、ICTが進歩した今においてもエネルギーの消費や材料の消費は続いています。NTTグループは、環境の負荷を軽減させながら、なおかつ経済を発展させなければいけない課題に積極的に取り組むべきと考えます(図1)。そのためのポイントが3つあります。1番目は、NTTグループ全体として意識を変えるということ。2番目は、それを具体的な行動で示すこと。3番目は、その行動を技術革新で支えること。この3つが講演の根底にあるキーワードです。
今までの経済モデルはリニアエコノミーでした。材料を使ってモノをつくって売って利用した後、捨ててしまうという直線型の経済で私たちは発展してきました。車を例に挙げると、経済が豊かになればなるほど一家に1台、1人1台と所有する車の数は増え、その結果、材料やエネルギーをたくさん使用したり、道路を整備したりと環境にどんどん負荷を与えています。家電製品においても、豊かになればなるほど1部屋に1台のエアコンや何台ものTVを所有し、環境に負荷を与えているといった状況は変わりません。私たちの分野であるICTも同様です。 ICTが豊かになればなるほど、情報の流通量も増え、必要なエネルギー量も増えていきます。これは決して環境には優しいとはいえない活動です。しかし、その結果としてさまざまな価値が生まれ、生活は便利になり、社会も安心・安全になっています。これに対して環境の負荷をどうやって下げていくかといった課題について、何らかのアプローチがいると考えます。

図1 経済発展と環境負荷低減の両立

図1 経済発展と環境負荷低減の両立

サーキュラエコノミー

サーキュラエコノミーの考え方が、オランダを中心として、ヨーロッパでは当たり前になっています。使ったものはもう一度リユースする、あるいは材料として戻す、それらが不可能な場合は燃やしてエネルギーにするという循環型経済という考え方です。使い方においても、所有せずサービスにして提供する方法や共用して占有をしないなどの方法でなるべく環境に負荷を与えない、また、経済が発展するよう技術革新を取り入れる必要があります。これからは、資産の占有ではなく共用、エネルギーはなるべく再生可能エネルギーを使う、サーキュラエコノミーで循環型経済をめざすという意識に、企業や市民が変わっていかなくてはなりません(図2)。

図2 これからの経済モデル

図2 これからの経済モデル

PtoP型シェアリングエコノミー

PtoP型のシェアリングエコノミーは個人のほうが進んできています。いろいろなカテゴリのサービスを提供する方々が登場してきており、ユーザ側は所有せずにサービスを利用するという立場で進んでいるエコノミーです。いくつかのジャンルではこういったエコノミーが始まっており、再利用・再資源化も進んでいます。このシェアリングエコノミーの背景にあるのは、やはり所有ではなく共有です。捨てるのはもったいないため皆でシェアしたほうが良いという価値観が生まれ、売り手と買い手が1対1で取り引きを行い、すぐに日常にしてしまうような経済がどんどん進んでいます。ところが通信の分野では設備とサービスが一体のモデルであるため設備競争が生まれ、設備の占有が生じています。モバイルでいえば、良い場所にアンテナを建てることが企業にとってのアドバンテージになるため、同じような場所にアンテナを建てたがる企業が多くなります。設備競争とサービス競争の一体化が今までの私たちの事業ですが、これでは環境の負荷が高くなってしまいます。これからは設備とサービスを分離させ、インフラはなるべく共用し、サービスは競争する、このような考え方をめざすべきだと考えます(図3)。

図3 シェアリングエコノミー

図3 シェアリングエコノミー

ICTにおける社会インフラの共用化

ICTにおける社会インフラとはどういったものでしょうか。例えば、電気通信事業であればアンテナや管路、電源など、クラウドのような技術であればコンピュータやサーバ、ストレージなどといった物理的な設備とデータも社会インフラとして定義されます。これを共用化するためには、共同でつくるか、共同で使うか、オープンにして活用し合う必要があります。そのため、広義でいうインフラシェアリングとは、データの活用も含めたものと考えていかなければなりません(図4)。これまでの取り組みがegoであるなら、ecoをめざす、リニアエコノミーからサーキュラエコノミーをめざす、所有からシェアをめざす、そういう意識改革を経営レベルで行わないと変わりません。

図4 ICTにおける社会インフラの共用化

図4 ICTにおける社会インフラの共用化

NTTとしての具体的な取り組み

NTTグループは公共性と企業性の両方の性質を持っており、社会に対する責任を負わなければなりません。私たちの事業の活動を通じた社会のさまざまな課題を解決していくために、パートナーとコラボレーションしながら活動していく必要があります。その結果としてSmart Worldを実現し、日本でいうSociety 5.0を実現し、世界でいうSDGsに貢献していこうという考え方です。共用化の取り組みについて、「移動体通信事業」「スマートインフラ事業」「スマートエネルギー事業」の3つの事例を紹介します。

移動体通信事業

この事業で社会的課題となっていることは、設備の投資コストを下げること、より早く5G(第5世代移動通信システム)の全国展開をするための基盤の整備が求められていること、5Gの基地局を建てるスペースを確保することです。これらを本当にまた設備競争するのですか? がテーマです。なるべくインフラを共用し、コストを下げ、社会資源であるスペースも有効に使うことがめざすべき姿ではないかと考えます。
(1) 建物(屋内・屋外)のシェアリング
「JTOWER」という各モバイルキャリアに中立的な会社があり、共同的にアンテナを建てていくことを事業としています。NTTは純粋持株会社としてJTOWER社に対して資本・業務提携をさせていただきました。これが最初の行動の第一歩です。モバイルキャリアの垣根を越えた5G時代におけるシェアリングモデルを広めたいと考えています。
今後、5Gがビルや工場などの中に入っていくと、建物の中にアンテナをたくさん付けていくという工事が発生します。これを各社ごとに行うと、アンテナの数や配線、電源などが増え、大変なことになります。そこで、なるべく共用アンテナ化、あるいは共用設備化しビルの中だけでもシンプルにしようという取り組みがIBS(In Building System)のシェアリングの考え方です。これによりコスト、エネルギーを削減できます。こういったことを担っていく中立的な会社が今後求められていくと考えています。具体的にJTOWER社が手掛けているのは、テナントやショッピングモールなど、商業施設の中のIBSです。各社がそれぞれ別のアンテナを建てるため何とか1つにしてほしいということがビルのオーナを含めた世の中のニーズです。
一方で、屋外(タワー)にも5Gのアンテナを建てていくニーズが出てくると思います。ルーラルエリアとアーバンエリアの2つだと、ルーラルエリアは加入密度が低く、おそらく5Gのビジネスとしても採算性は低いだろうということで、シェアリングすることに非常に経済的な意味があると思います。反対に、アーバンエリアは建てるスペースがありません。その狭いスペースを共同活用することが、シェアリングとして意味をなします。また、JTOWER社が全部建てなくても、既存のキャリアが自分のタワーなどを解放し、そこに他のキャリアの分も乗せるやり方でも構いません。元々5Gの周波数を割り当てたときに、総務省は全国を10 km四方の約4500のメッシュに切りました。そのメッシュのうち、何%を2024年までにカバーするかを各キャリアに問い、この場所は我々が5Gを提供しますと宣言し、より多く宣言したところから希望の周波数帯を割り当てていったというのが、周波数割り当ての流れでした。この約4500のうち、多くの場所が4キャリアで重なっています。そのため、各キャリアがバラバラに設置するのか、共有するのかがこれからの課題と考えます。
また、基地局と各社のアンテナを結ぶモバイルフロントホール(MFH)や、基地局と基地局、あるいは基地局と基幹通信網を結ぶモバイルバックホール(MBH)も、現状では各社ごとにつくっていますが、今後は共用化したいと考えています。ただ、特にフロントホールにおいて、現在基地局までの間は、ダークファイバを使いRF信号をそのまま送っています。ここに低遅延の伝送方式の技術革新が生まれれば、基地局までの距離制限を乗り越えて送り先を違うビルまで持っていくことができるので、基地局装置をさまざまなビルに設置できるようになり、建物の共用化や有効活用が進みます。なおかつ、そのネットワークをループ化させれば、冗長構成により信頼性も上がります。ビルのリソースにも限りがあるため、共用化、新技術の導入によって、ビルもシェアリングするということを進めていかなければならず、こういった技術革新が求められると考えます(図5)。
(2) 基地局装置の相互運用性促進(O-RAN)
世界中のキャリアやベンダを集めた、O-RANコンソーシアムという活動があります。これまで、基地局の設備はベンダごとに独自インタフェースをつくってきました。そのため、A社製品はA社製品としかつながらないという環境になっています。この環境ではシェアリングは難しいため、O-RANコンソーシアムでは、オープンインタフェースを定義しています。次のアドバンスド5Gのときに、各ベンダがオープンインタフェースに基づく仕様で製品をつくり、それを確認するテストベッドを用意し、それぞれの相互接続性、相互運用性を確認すれば、各社の製品が混在してもつながる環境ができてきます。このような取り組みを進めることがシェアリングにつながると考えます。
(3) ネットワークの将来像 
ネットワークに関しては、三層モデルで説明します(図6)。一番下が、ファイバや無線など、通信の媒体になるトランスポートです。真ん中が、各キャリアが提供しているネットワークサービスです。いろいろなサービス品目でお客さまに提供しています。一番上が、クラウドを使用し、さまざまなサービスを生み出すオーバーレイソリューションです。例えば、GAFAなどはここでサービスをつくり込んでいます。ネットワークのリソースと、オーバーレイソリューションのリソースをマルチオーケストレータで組み合わせることにより、現実のサービスが提供されています。なお、これまで説明してきた「共用」はどの部分かというと、アンテナや伝送路などの一番ベーシックなトランスポートレイヤです。一方でサービスは一番上のオーバーレイソリューションで競争するようになります。「共用」と「競争」をうまく組み合わせることにより、ユーザに新しい価値を与えることができると考えます。

図5 ビル共用の促進

図5 ビル共用の促進

図6 ネットワークの将来像

図6 ネットワークの将来像

スマートインフラ事業

ここでいうインフラとは管路やとう道といった埋設設備とそれに関するデータのことを指します。通信のみならず、ガス、水道、電気など、地下に埋設物を持ってサービスを提供している事業者の設備は大変古くなっています。また、それら設備のメンテナンスや構築する補修要員も高齢化しているうえに、各社で別々にオペレーションしているため、非効率性と環境への負荷を与えています。そこで、各社の設備を共通化することはできなくても、各社のデータを共用化し、さまざまなことを効率化することで環境に優しくできるだろうといった考えがスマートインフラ構想です。それには、各社が独自で持っている設備のデータベースを1枚の地図上に重ね合わせなければなりません。他事業者の設備については、深度何メートルに何が埋まっているのかは分かりません。また、道路の掘削など、各事業者はまちまちのタイミングで作業します。そこで、まず一番はじめにしなくてはならないことは、データの共有化です。そのためには、データをオープン化しなければならず、そのオープンなデータを基に、全体を見えるようにしなければなりません。そのプラットフォームが必要になってきます。リアルの設備をデジタルデータに変え、デジタルの世界で実際に重ね合わせることをデジタルツインと呼びますが、どのように埋設されているのかを見える化するためには、このデジタルツインをしっかりつくれるかどうかが勝負で、そのためには、3Dの技術や、予測技術が必要になってきます。こういったことができてくると、各社が別々に行っていた地下埋設物の保守や構築に関して、足並みをそろえることができます(図7)。例えば、道路を改修する際には、データベースで一元的に見ることができ、代表者が一元的に立会うことができます。 現在、i-Constructionというのが進んでおり、掘削する機械が埋設物の場所のデータに基づいて掘るので、このデータが本当に正しければ、誤切断などの事故を起こさないといったことにもつながっていきます。サイバー空間上ですべてシミュレーションしてから、現地でリアルに作業するやり方が標準的になる時代が来ると考えています。
保全に関しては、耐用年数や点検による故障の判定基準にて取り替えを行っていました。しかし、データ化を進めていくことで、そのデータ上に予測技術を持ち込み、未来はこうなるだろうと予測して点検していくことが可能になります(図8)。通信ケーブルだけでなく、例えばガス管や水道管、電気の管路についても、どのようにして一緒に合わせて効率的に作業するかを考えていくことが、社会的なインフラを持つ事業者にとってエコな取り組みになるのではないかと考えています。これを行うために、NTTはNTTインフラネットをNTT東日本から持株会社へ帰属変更し、グループの中だけではなく、グループの外に対してもスマートメンテナンスの事業、あるいは先ほど挙げたデータベースの構築ができるように、経営形態を変更し、資本も増強しました。それが最初の行動です。いずれは、スマートシティの構築の際にも、さまざまな事業者や配管、配線などが設計の段階で決まってくると思います。また、街全体としての景観などもサイバー空間上で点検できるようになります。

図7 スマートインフラ構想

図7 スマートインフラ構想

図8 スマートメンテナンスへの活用

図8 スマートメンテナンスへの活用

スマートエネルギー事業

通信とエネルギーは切っても切れない関係です。特に昨今、私たちがICTをどんどん進め、データセンターをどんどん建てることがエネルギーの消費を圧倒的に増やしてしまうということに、通信事業者として大変な責任を感じています。そこで、環境負荷を下げる活動に自ら取り組むべきと考えており、化石燃料から再生可能エネルギーへシフトしていく動きを支援したいと考えています。また、昨今繰り返されている大型の災害で、通信に限らず世の中の社会基盤が被害を受けていることに対して、非常用の電源の供給が重要な課題になっています。こういった社会課題を解決するために、私たちの持っている通信のインフラや局舎をシェアリングし、サスティナブルな社会をつくることへの貢献をめざし、NTTアノードエナジーという子会社を持株会社配下につくりました。
日本は現在16%しか再生可能エネルギーを利用しておらず、2030年の目標でも22〜24%と消極的な数字しか示せていません。ヨーロッパではすでに30%台の国もあり、将来的には再生可能エネルギーの比率を40%以上に増やしていくと宣言しています。すべてを再生可能エネルギーにすることは難しいですが、再生可能エネルギーを増やしていく必要があると考えています。
しかし、再生可能エネルギーには弱みがあります。例えば、太陽光発電であれば時間と天気によって発電量が非常に変動しやすいことが挙げられます。風力発電も同様で、風の強さによって発電量が変動するため安定しません。これは、化石燃料もしくは原子力で発電している通常の電力に比べると弱みです。また、需要・供給の問題でみると、都市部では非常に電力の需要が大きいのに対し、実際に再生可能エネルギーを供給できる環境は、むしろ電力消費の少ない地方のほうです。需要と供給のバランスは取れておらず、これをすべて線でつなぐとすると、送電・配電するだけでもコストがかなりかかってしまうため、この再生可能エネルギーを最大限活用する仕組みが必要になってきます。そして、その答えは分散エネルギーだと考えています。ある程度エネルギーを生んだところの近傍でそのエネルギーを消費することで、需要と供給のバランスの問題を解決したいと考えています。さらに、交流の電力のバックアップに、再生可能エネルギーを入れている地域はたくさんあるのですが、交流が十分足りているときは、供給過多になるので発電を止めています。その分を電池にためておき、使いたいときに使えれば良いのですが、現在ではそういった取り組みはされておらず、生み出した再生可能エネルギーが100%は使われていないのが実態です。今後、既存の交流の系統に再生可能エネルギーの分散型のエネルギーシステムをどうオーバーレイし、再生可能エネルギー自体をどのように最大活用するかということを進めていきます。
そこで、何を活用するかというと、NTTはたくさんのビルを持っているのでそこに電池を置く、あるいは、ビルとビルの間も管路を持っているので、直流の送電・配電網を必要ならば構築するなど、が可能になってきます。また、通信事業の特性として、エネルギー網をコントロールする、マネージすることに関しても自分たちが力を発揮できる分野と考えます。放電・発電の制御、見える化といった需要と供給のコントロールをしていかなければならず、それにはICTの技術が必要になります。将来はそういったことを自動的に、オートノマスに行い、AIも持ち込み、こういったことをトリガーとして行っていきます。

おわりに

これからもサスティナブルな地球環境を実現するためにNTTグループは努力していきますので、ぜひ、関係の皆様のご支援ご協力を賜りたいと存じます。

◆問い合わせ先
 NTTアクセスサービスシステム研究所
  企画担当
  TEL 029-868-6040
  FAX 029-868-6037
  E-mail tforum2019-pb-mlhco.ntt.co.jp

ページトップへ