トップインタビュー 岡 敦子 NTT 取締役技術企画部門長

DXで未開拓分野のコミュニケーションをも促進 ―― MECEな姿勢で物事を多角的にみる

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NTT 取締役技術企画部門長 岡敦子

社会問題解決に意欲的に取り組むNTTグループ。環境保全分野において国際イニシアティブEP100、EV100に電気通信事業者として初めて加盟、イノベーション力は8年連続でグローバルなTopイノベータへ選出されるなど、取り組みや対応力を国内外で高く評価されています。安心・安全なICT基盤と運用において高品質・高信頼なサービスを提供するNTTグループの2020年度の展望を岡敦子NTT取締役技術企画部門長に伺いました。

◆PROFILE:1988年日本電信電話に入社。2006年NTTコミュニケーションズ ネットビジネス事業本部IPサービス部担当部長、2010年NTTナビスペース代表取締役社長、2017年NTTレゾナント取締役ソリューション事業部長を経て、2019年6月より現職。

Your Value Partnerとして具現化する通信環境の「当たり前」

2019年はどのような1年でしたでしょうか。

2019年は、台風15号と19号という大きな台風が相次いで日本列島に上陸し、強風や河川の氾濫などにより各方面に大きな災害をもたらしました。被害に遭われた方々には謹んでお見舞い申し上げます。通信回線については約8万の回線が影響を受けました。NTTとして社会インフラである通信の復旧を進める中で、迅速な復旧をはじめとするレジリエンス(災害や故障等からの復旧)の強化、そしてさらなる情報発信の強化を検討しなければならないと強く感じました。例えば、台風の進路や強度等から、通信設備への影響を予測し、復旧に必要な人や資材などを被害が予測される地域の近くに事前に準備する取り組みを始めています。あくまでも予測ですから無駄に終わってしまうこともあるかもしれませんが、通信事業者である私たちの立場とすれば、やはり迅速な復旧が第一のプライオリティであり、災害が発生してから対応を始めているようでは遅いと考えています。当たり前のインフラをいち早く復旧できるように研究所のAI(人工知能)技術等を駆使して災害の発生を予測し、それに対してプロアクティブに対応しています。
こうした通信設備の災害に関する情報にとどまらず、NTTがどのようなサービスを提供していて、そのための設備はどのようなものであるか、そしてそれらがどういう状況にありどんな復旧活動を行っているかというような情報発信をしていくことも必要であると考えました。ワールドカップ、オリンピック・パラリンピックのようなスポーツやサミットのような国際イベントが日本で開催される機会も多くなっており、それらへの参加や観戦等のため、海外からのお客さまも多く訪れています。WebやSNSなども日本語のみならず、英語、および多言語での対応を進めています。さて、こうした国際イベントやナショナルイベントが定常的に行われるようになってくる中、これらが円滑に開催されるため、あるいは企業が通常どおりに活動を行っていくうえで、安定的な通信に加えてセキュリティも重要となります。NTT技術企画部門のセキュリティ戦略チームはいち早い異常検知、分析、対応とセキュリティの脅威への防御に向けた技術検討もミッションとして取り組んでいます。備えあれば憂いなしではありませんが、通信の安定的提供のために何事にも繊細にアンテナを張ってプロアクティブに対応していきたいと考えています。

伺っているだけで心強いですね。2020年度はどのように取り組まれますか。

NTTはYour Value Partnerという中期経営戦略を2018年11月に掲げています。その戦略の柱として、「自らのデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」「お客さまのDXをサポート」があります。私たちにとってこれは大きなミッションの1つです。DXはコスト削減や効率化という印象が強いかもしれませんが、それにより時間が創出されることで働き方改革、コミュニケーションの活発化、オープンイノベーションにもつながります。例えばこれまで紙が介在していた業務において、業務プロセス全体をデジタライズし、情報をデータ化し流通させることで全体のスピードが速くなります。すると、お客さまへのサービス提供も早くなりますから、顧客満足度が向上し、顧客体験(CX)の向上が見込まれます。そして、私たちがDXを推進し便利になったという実例を今度はソリューションサービスとして提供していくことで収益アップにつながることもめざしています。
そして、すでに分野ごとにアクティビティを進めています。クラウド型の料金請求プラットフォーム「Smart Billing®」を販売開始しています。クラウド型の契約管理プラットフォーム「スマートフルフィルメント」も法人のお客さまに提案中です。
お客さまもかなり積極的にDXを進めていらっしゃる様子で、NTTで推進していることを教えてほしいとご依頼いただくことも多くなりました。お客さまのDXが進めば、働き方改革もそうですが、企業も個人も仕事のスタイルが変化するでしょうし、これまでお話ししなかった方々とのコミュニケーションも活発化するでしょう。結果オープンイノベーションも進むのではないでしょうか。

時間の使い方が変わることで新たな世界が拓けそうですね。

将来的な話として、2030年ごろの実用化に向けて推進している次世代コミュニケーション基盤の構想、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)があります。 IOWN構想を実現するための新たな業界フォーラムであるIOWN Global Forumについては、すでに法人登記を済ませており、初期ボードメンバーとして、Intel、Sony、NTTが就任しました。また、マイクロソフト、ベライゾン、Orange、中華電信など国内外100社以上の企業が関心を示しています。フォーラム設立の反応は、海外からのほうが早かったです。今までNTTが打ち出してきた構想は国内に向けての発信が多かったように思いますが、こうした状況をかんがみますと、昨年、NTT Research, Inc. などの新たな海外研究拠点を立ち上げたこと、IOWN最大の特徴であるネットワークから端末までのエンド・ツー・エンドに光技術を適用する「オールフォトニクス・ネットワーク」への関心度の高さ、現状のままでは限界が訪れるといわれている半導体の省電力化、高速化などの課題に対する解決策としてグローバルで期待されていることを実感しています。
NTT技術企画部門は研究所や外部の新しい技術の事業導入、運用、保守、そして災害対策、セキュリティ、設備の効率的調達などに関する施策立案、実行を推進していきます。 IOWNを構成する技術や新たなサービス、事業などが具体的になった段階で、IOWNにふさわしいネットワークのグランドデザインや、既存のネットワークからオールフォトニクス・ネットワークへ段階的に移行させていくための、マイグレーションプランも検討していきます。

NTT 取締役技術企画部門長 岡敦子

迅速に繊細に「継続は力なり」

岡部門長が任務を遂行する上で大切にしていらっしゃることを教えてください。

好きな言葉でもありますが、「継続は力なり」です。とにかく真面目にコツコツやっていれば何とかなると思っています。また信条として、時間は絶対に守ることです。会議に一番乗りしてしまうことも時々あります。会議は参加する人の時間を合わせている、その人たちの時間を使っているわけですし、皆さん忙しいですから、この時間しか取れないという方も多いです。時間が守られないことによってロスとなるその時間が惜しい。今の時代、電化製品を使って家事を削減するなど、お金で買える時間もありますが、皆が顔を突き合わせて何かに挑む時間はお金では解決できないと思います。貴重な時間を無駄にすることは本当にもったいない、という気持ちになります。
そして、仕事ではメモをとること、プライベートでは日記をつけることです。たいしたことは書いていないし、きれいにまとまっているわけでもないですが、振り返ったときに気付きを得ることがあります。記憶だけを頼りにはできないと思っています。この習慣のきっかけは大学時代にさかのぼります。高校まではエスカレータ式だったので、旧知の人ばかりでしたが、大学へ入ると周りは初対面の人ばかり。最初は誰も頼れない環境の中で、やはり頼れるのは自分という実感を持ちまして、必死にノートを取り始めたのがきっかけです。が、試験前になるとノートを貸してくださいというクラスメートに次々と貸していたら、そのノートが学年全体に出回っていました。その後、NTTに入社してから外郭団体等で活動していたときですが、チームがメモを取る習慣のない中でもメモを取り続け、最終的に私のメモを活用していただいたという経験もあります。自分のためにとったノート・メモが、結果的に仕事に貢献できたということです。
それから、MECE(ミーシー:Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive:互いに漏れがなく、全体に重複がない)を意識する姿勢です。仕事が集中してしまうとどうしても全体感が見えなくなってしまい、漏れはないかと不安になります。しかし、一歩引いて少し高い視点からもう一度全体像をみてみると、その漏れに気付くことがありますので、これを意識しながら仕事をしています。日々の仕事において、全体感をとらえるためにフレームワークを設定し、カテゴライズするという工夫をし無駄な検討を減らし、手戻りを減らすことも重要だと考えます。この習慣は社会人になってからです。以前、NTTコミュニケーションズの経営企画部の仕事に携わっていたころからでしょうか。視野が狭かったり、足りなかったことによってもう一度何かをお願いすることになっては、申し訳ないと感じたからです。

何事からも教訓を得て、次へつなげられていくのですね! 転機となったことがあれば教えてください。

NTTに入社したときはソフトウェア研究所に配属になり、インターネットに関係する研究を手掛けてきたのですが、突然、国際部への人事異動となったことは、考え方も大きく変化しましたし、今思えば転機だったのかもしれません。
1990年代にマレーシアのマハティール首相が、マルチメディアスーパーコリドー(MSC)という21世紀に到来する本格的な情報社会を世界の先進国に伍して実現しようとするビジョンを掲げました。このプロジェクトが立ち上がり、NTTへの協力依頼があり、そこに参画するために国際部への異動を命じられたのです。
当時、帰国子女でもなく英語も十分に話せませんでしたので、とても不安でした。学会研究発表の経験はありましたが、NTTの技術を海外へアピールすることや、海外の方々と共同でコンセプトをつくり上げる経験もありませんでしたから「どうすれば良いのだろう…」という心境でした。
これをピンチととらえるかチャンスととらえるかといったら、正直最初はピンチです。NTTに入社してからのバイオリズムを描いたら、まるでどん底に落ちたかというくらい不安でした。ところが、いざプロジェクトに就いてみると、NTTの技術は素晴らしいことが分かり、それを提案したい、かたちにしたいという気持ちに駆られ、前に前に動いていく自分がいました。そして、具体的に示さないと相手には伝わらない、そのためにはコミュニケーションが重要だと気付き、さらには、ビジネススクールでは当たり前のように教えているマーケティングの考え方も必要だと気付きました。いつの間にか、ピンチがチャンスになっていました。その後、1999年に2度目の転機として、海外留学をさせていただき、ビジネスのイロハから技術をビジネスにつなげていく術まで学びました。留学先やマレーシアでの経験を通じて、多国籍なチームメンバーとともにプロジェクトを遂行することでダイバーシティな視点や発信力を培い、その先のContribution(貢献)の重要性を認識しました。

NTT 取締役技術企画部門長 岡敦子

一生懸命働いて得る「やりがい」

岡部門長にとって仕事とは何でしょうか。

仕事とは、まず一生懸命働いて対価をいただくことであり、同時にその成果により世の中が変わること、そして、私たちの提供するサービスでお客さまが満足してくださる、というやりがいを実感できることではないでしょうか。
先ほどお話ししたとおり、私はこれまで順調に仕事をしてきたわけではありません。例えば、国際部に異動してマレーシアプロジェクトに参画したことは、ことばのハンディを含めるとほぼ挫折に近かったかもしれません。しかし、策はあります。私たちは1人で仕事をしていないのです。NTTに入社して良かったと思うのは、必ず誰かが助けてくれることです。非常にありがたいところです。
また、仕事をするうえで、自分自身のロールモデルをイメージしようとしたのですが、同じようなバックグラウンドで同じようなシチュエーションにいる方というのはなかなかいないので、さまざまな人とかかわりながら、「イイとこ取り」をして自分で組み立てながら自らのロールモデルをつくり上げてきました。私のアクティビティが後輩の女性たちの参考になるのかなというのは時折考えますが、それよりむしろ、管理職の女性も増えてきていますから、逆に彼女たちの仕事のやり方やパフォーマンスをさらに「イイとこ取り」し、私自身もさらにチャレンジを続けたいと思います。

社内外の技術者の皆さんに一言お願いします。

私はもともと研究者として技術に携わってきました。技術には即座にビジネスにつながる、かたちになるものばかりではなくて、20年後等、ある程度時間が経過してからかたちになるものもあります。私が留学から戻ってきて最初に手掛けたのは映像配信サービスの立ち上げです。当時はブローバンド元年といわれていましたが、映像配信は多くは品質64 Kbit/sでした。ところが、さまざまな技術が融合されてきて今では5Gまでたどり着き、スマートフォンで美しい映像をみることができる時代になってきました。すぐに成果の出る技術を生み出すことのみが技術開発ではなく、時間の経過とともに市場環境が整い花開く技術開発もあります。そのためには、自らが手掛けている研究、技術をオープンにし、コミュニケーションを図ることが重要です。昔と違って、今ではWebなど発信手段も多くありますし、オープンイノベーション、コワークの重要性も高まってきています。だからこそ、オープンにする、そしてコミュニケーションを図り人とつながっていくときにはやはり誠実さが基本となってきます。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

岡敦子 外川智恵
■インタビューを終えて

NTT 取締役技術企画部門長 岡 敦子氏

いつものように慌ただしく対談準備を進めていると、ドアの向こうから柔らかくあたたかな「よろしくお願いします」という声が聞こえてきました。岡部門長の登場です。飾り気のない中にも清潔感や品格の漂う装いが会場をパッと明るくしてくださいました。
ご趣味は歌舞伎をご覧になることだとか。「やや宣伝になってしまいますが、京都南座の超歌舞伎。NTTの技術「Kirari!」が使われていてすごくおもしろかったし、盛り上がりました!」と声を弾ませてお話しくださいました。古い作品を時代に合わせて継続的に上演されることにご興味をお持ちで、特に時代の解釈や演じ手によって変化することがおもしろいと岡部門長。映画鑑賞もご趣味の1つで『名探偵コナン』や『スター・ウォーズ』などジャンルにこだわらずご覧になるといいます。幅広いなぁと感心していると、「最近の映画館って素晴らしい設備じゃないですか!」と着目しているのは作品のみならず、やはり技術かと、お仕事への熱意はお休みの日も健在と思わされました。一方で、1日のうちに1人で自分の頭を整理する時間をしっかりと持つことを心掛けていらっしゃるといいます。周囲への協力も呼びかけ、自分の時間を確保する。生き馬の目を抜く最前線でのご活躍はこうした落ち着きを取り戻す時間によって支えられている。緩急の重要さを再確認したひとときでした。

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