IOWN構想特集 ―― コグニティブ・ファウンデーション® ――

IOWN構想に向けたコグニティブ・ファウンデーション®関連技術の取り組み

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爆発的に増えるデバイスの管理、多様化するデジタルサービスなど、さまざまな産業や社会システムで高まるニーズに素早く対応するためのICTが求められています。本稿では、NTTグループにおける、アプリケーションやソリューションを提供するためのICTリソースの配備や構成の最適化といったライフサイクルマネジメントの完全自動化・自律化、そして自己進化の実現に向けた取り組みについて紹介します。

長谷部 克幸(はせべ かつゆき)†1/ 青木 大輔(あおき だいすけ)†1/ 日下部 優介(くさかべ ゆうすけ)†1/ 神崎 誠(かんざき まこと)†1/ 工藤 伊知郎(くどう いちろう)†2/ 池邉 隆(いけべ たかし)†2

NTT技術企画部門†1
NTT研究企画部門†2

はじめに

本格的な5G(第5世代移動通信システム)/IoT(Internet of Things)時代に入り、あらゆるモノがネットワークにつながり、大量のデジタルデータの効率的な収集・蓄積が可能となっただけでなく、AI(人工知能)を用いて、業務効率や生産性の向上に資する高度な分析・予測も可能となってきています。その一方で、少子高齢化や労働力人口の減少、膨大な被害を及ぼす自然災害などの社会的課題を解決し、社会に大きな変革をもたらす「デジタルトランスフォーメーション(DX)」への期待が高まっています。NTTグループは、このような時代の要請にこたえるさまざまな分野のサービス事業者(センターB)を支えることで、エンドユーザへの新たな価値創造を実現するB2B2Xモデルの推進に取り組んでいます(1)
本特集では、B2B2Xモデルをさらに促進するための、NTTグループが進める構想とその構想を支える技術、現在の取り組みなどについて紹介します。

コグニティブ・ファウンデーション®

コグニティブ・ファウンデーション®(CF: Cognitive Foundation®)構想とは、クラウドやネットワークサービスに加え、ユーザのICTリソース*1を含めた配備や構成の最適化、つまり構築・設定および管理・運用を、一元的に実施するものです。従来これらのICTリソースは、アプリケーションやソリューションごとにサイロ化され、個別の配備や構成の最適化といったライフサイクルマネジメントが必要でした。さらに昨今では、エッジコンピューティングやハイブリッドクラウドにおける高度な分散連携が求められるユースケースが増えるなど、ICTリソースのライフサイクルマネジメントは、継続かつ複雑化する傾向にあり、社会システムを提供するセンターBがアプリケーションやソリューションの開発・提供に注力するうえで、大きな負担となっていました。
コグニティブ・ファウンデーション®構想では、マルチドメイン*2、マルチレイヤ*3、マルチサービス・ベンダ環境における迅速なICTリソースの配備と構成の最適化、さらには、完全自動化・自律化、そして自己進化することで、センターBが本来のビジネスに注力いただけるようにしていきます(図1)。

図1 コグニティブ・ファウンデーション<sup>®</sup>とネットワーク3層モデル

図1 コグニティブ・ファウンデーション®とネットワーク3層モデル

マルチオーケストレータ

コグニティブ・ファウンデーション®構想を構成する要素は2つです。1つは、前述したさまざまなICTリソースです。もう1つは、キーテクノロジであるマルチオーケストレータ(MO: Multi Orchestrator)です。このマルチオーケストレータが、センターBの要望に応じて、さまざまなICTリソースの配備、構成の最適化を一元的に実施することで、コグニティブ・ファウンデーション®構想を実現します。
マルチオーケストレータは、次の3つの機能群で構成されており、各機能群はAPI(Application Programming Interface)を通じて疎結合可能なかたちになっています。

現在、マルチオーケストレータの3つの機能群を網羅する類似製品は市場にはなく、特に②、③については、ほかとの差異化要素として競争力の源泉となるように、技術特許の申請を行いながら内製開発を進めています。3つの機能群の基本的な開発は、2019年度に完了しています。
コグニティブ・ファウンデーション®構想は、NTTコミュニケーションズにてマルチオーケストレータのさらなる機能充実・高度化を継続するとともに提供していきます。
現在、コグニティブ・ファウンデーション®構想を具現化する取り組みとして、米国ラスベガス市におけるスマートシティがあります。また、並行して複数のPoC(Proof of Concept)にも取り組んでいます。今後もスマートファクトリー、スマートヘルスケア、スマートスポーツなどのスマートワールドの実現に向けて取り組んでいきます。

IOWNの実現に向けた取り組み

コグニティブ・ファウンデーション®は、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)においても要となる取り組みです。IOWNとは、2019年にNTTグループが公表した将来に向けた持続可能な成長を実現するための技術的な課題の解決をめざす新しい情報流通基盤の構想です。この課題とは、 IoT、ビッグデータ、AIなどの活用が進み大量のデータ処理に伴って消費電力がますます増大すること、加えて半導体進化の停滞も取りざたされており、持続的な成長が困難になるおそれがあることです。こうした課題の解決に向けて、NTTは従来の電子技術による信号処理から、光技術をチップ内に導入する光電融合型の処理に関する研究に取り組んでおり、2019年4月に世界最小の消費エネルギーで動く光トランジスタについて発表しました。またインテル、ソニー、NTTの3社がパイオニアとなって、光電融合技術を活用したフォトニクス関連の研究開発を推進する国際的な取り組み「IOWN Global Forum」(2)を米国で設立することを公表しました。光電融合技術を活用した光半導体はIOWNの基本となるものであり、その活用により端末やデバイス、ネットワークが支えるアプリケーションの能力を拡大していくものです。
このIOWNは、ネットワークから端末まですべてにフォトニクスの技術を導入した「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」、実世界とデジタル世界の掛け合わせによる未来予測等を実現する「デジタルツインコンピューティング(DTC)」、そしてあらゆるものをつないで制御する「コグニティブ・ファウンデーション®(CF)」の3つの要素から構成されます。
コグニティブ・ファウンデーション®は前述のとおり、ユーザのICTリソースを含めた構築・設定および管理・運用を一元的に実施する仕組みです。コグニティブ・ファウンデーション®によって、マルチドメイン、マルチレイヤ、マルチサービス・ベンダ環境における迅速なICTリソースの配備と構成の最適化を実現することができます。
今後、コグニティブ・ファウンデーション®はIOWNの実現に向けて、さらなる自動化と自律的・自己進化型のネットワークのマネジメントと、AI基盤・データのマネジメントが可能な基盤への進化をめざします。前者ではディープラーニングに基づく異常検知といった単体システムでの予知保全のレベルから、マルチ無線制御技術による最適な無線接続、複数システムの自動運用、最終的には自己進化型のオペレーションをめざした研究開発に取り組んでいきます。後者では、膨大なリアルタイムでの推論・予測・最適化処理を支えるAI基盤、散在するデータを低遅延かつ安全にやり取り可能にするデータ流通に取り組んでいきます。またコグニティブ・ファウンデーション®はさまざまなリソースを安全に組み合わせる必要があり、そのためのセキュリティ技術についても研究開発に取り組んでいきます。

米国ラスベガス市における公共安全ソリューションの取り組み

NTTグループでは、B2B2Xモデルに基づき、スマートシティ、スマートファクトリー、スマートヘルスケア、スマートスポーツなどのスマートワールドの実現に向けて取り組んでいます。コグニティブ・ファウンデーション®構想を具現化した取り組みである米国ラスベガス市におけるスマートシティ(公共安全ソリューション)に関する取り組みについて紹介します。

公共安全ソリューションに求められる社会課題

近年、都市部での犯罪や災害などが増加する中、多くの人が集まる市街地やイベント会場等において、群衆の動き、交通状況、緊急事態の発生等を把握し、市民の安全を守ることは、自治体や警察、消防等の関係当局にとってますます重要になっています。特に、関係当局における初期対応時間の短縮を実現するためには、複数センサの配置による迅速な状況把握に加え、事件性の高いインシデントを事前に予測・分析することが、公共安全ソリューションに求められています。

米国ラスベガス市における公共安全ソリューション

このような社会課題を踏まえ、2018年9月からNTTグループは、デルテクノロジーズグループとともに、ラスベガス市のイノベーション地区に、高解像ビデオカメラ、音響センサおよびIoTデバイスを配備し、ラスベガス市職員の現場状況認識に役立つ情報を収集・分析しました。また、将来の経済的な機会を創出する交通管理等を実現するためのデータ基盤について、ラスベガス市と共同で検証を進めてきました。この共同実証実験におけるポイントは、以下の3つです(図2、3)。

実証実験の結果、例えば、逆走が多発していた一方通行の道路を監視・分析したところ、道路標識が見えにくかったり、道路上の塗装が消えていたりと原因が明らかになりました。ラスベガス市は、このような分析結果に基づいて、さまざまな対応策を講じているところです。

今後の展開

2018年12月、実証実験の成果に基づき、NTT、ネバダ州、ラスベガス市は、先端技術を活用したスマートシティ推進について合意しました。2019年2月からは、NTTグループ(NTT、NTTデータ、Dimension Data、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェア、NTTセキュリティ)は、ラスベガス市に対してスマートシティソリューションの商用提供を開始しており、2020年現在は、ラスベガス市ダウンタウンエリアにある同市の新たなイノベーションセンター(THE INTERNATIONAL INNOVATION CENTER @ VEGAS)(3)を活用し、提供エリアをさらに拡大するとともに、スマートシティソリューションの機能拡張や他都市への展開について、さらに連携を進めています。今後は、協業パートナーとも連携しながら、米国の他州・他市や、APAC、EMEA(Europe, the Middle East and Africa)に対しても、コグニティブ・ファウンデーション®をベースに構築されたスマートワールドの実現に向けたソリューションをグローバルに展開していきます。

図2 米国ラスベガス市における公共安全ソリューション

図2 米国ラスベガス市における公共安全ソリューション

図3 ラスベガス市のイノベーション地区に設置しているビデオカメラや道路標識

図3 ラスベガス市のイノベーション地区に設置しているビデオカメラや道路標識

無線アクセスを最適化する「Cradio(クレイディオ)」

IOWNの「W」、無線についてもコグニティブ・ファウンデーション®は大いに関係します。世の中にはさまざまな無線の方式があります。従来の4G/LTEはもちろん、衛星通信、Wi-Fi、WiMAX、IoT向けのLPWA(Low Power, Wide Area)、そして5G、Local 5Gなど、大変複雑になっています。お客さまのさまざまな利用シーンにおいて、その種類や使い方、ネットワークサービスを意識させない、無線アクセスを最適化する技術「Cradio(クレイディオ)」の研究開発に取り組んでいます。Cradioは場所だけでなく混雑や品質の予測に基づいて、プロアクティブに無線接続を最適化します。例えば通信相手がWi-Fiのスループットが低い場所にいるときに、急いで情報を送りたい場合には、ネットワーク側から最適な無線アクセスを選択し、接続を制御することもできるようになるでしょう。場所、アプリケーション、環境などに応じて、方式や事業者を意識せず、無線アクセスを利用できる無線制御技術をコグニティブ・ファウンデーション®に取り入れていきます。詳細は本特集記事『複数無線アクセス最適利用のための品質予測技術』をご参照ください。

自己進化型のオペレーション

2019年は台風による大きな災害により通信サービスも大きな影響がありました。NTTグループが通信基盤を提供していく中で、これまでにも機器が発するログから障害をAIが予測して自発的に対処する技術の研究開発に取り組んできましたが、これをもう一歩進めます。例えば台風の勢力や進路といった気象情報、イベント開催情報など、ネットワーク機器を監視するだけでは分からない情報をコグニティブ・ファウンデーション®に取り入れていきます。新たに収集した情報を基に、システムが自ら考え最適化していくことで災害発生前に対策を立案し実行します。未来予測を用いシステム自体が進化していく、自己進化型のオペレーションをコグニティブ・ファウンデーション®に取り入れていきます。詳細は本特集記事『インテリジェント・ゼロタッチオペレーション』をご参照ください。

■参考文献
  • (1) 澤田:“Smart Worldの実現に向けて,”NTT技術ジャーナル,Vol.31, No.1, pp.4-10, 2019.
  • (2) https://iowngf.org/
  • (3) https://innovate.vegas/IIC-Vegas

神崎誠/日下部優介/青木大輔/池邉隆/長谷部克幸/工藤伊知郎
(後列左から)神崎 誠/日下部 優介/青木 大輔/池邉 隆
(前列左から)長谷部 克幸/工藤 伊知郎

IOWN構想の実現に向けて、コグニティブ・ファウンデーション®構想を具現化したスマートワールドの実現や関連技術の研究・開発に取り組んでいきます。

◆問い合わせ先
 NTT技術企画部門
  プラットフォーム戦略担当
  TEL 03-6838-5225
  E-mail pf-str-allhco.ntt.co.jp

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