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「つなぐコラム」“地球にちょうどいい暮らし方”

第6回 実りの秋〜田んぼとお米と「地球1個分」の暮らし小田 倫子

酷暑の夏が過ぎ去り、今年もやっと秋の気配が感じられるようになりました。「文化の秋」「芸術の秋」には、多くの学校で文化祭が開催され、「ちはやふる」効果もあってか、「かるた部」の活躍も各地で注目されているようですが、百人一首の「一番」に掲載されている歌は何かご存じですか。

秋の田の かりほの庵(いほ)の 苫(とま)をあらみ
わが衣手(ころもで)は 露にぬれつつ 天智天皇

正解は、「実りの秋」を詠むこの歌でした。「秋の田」、稲刈りを待つ黄金色の田んぼは、古来より日本を代表する秋の風景となっています。最近は食材に季節感がなくなってきましたが、「収穫の秋」「食欲の秋」には、新米が店頭に並ぶのを心待ちにしている人も多いと思います。そして、日本の田んぼは、私たちの主食の生産地として重要であるだけでなく、世界的にみても生物多様性が豊かな生態系として、種々多様な生物のすみかとなってきました。

しかし、そのような日本の田んぼにも、「地球1個分」を超える人間活動の影響が出ています。ゲンゴロウ・ミズスマシ・トンボ類などの水生昆虫、カエル・イモリ類などの両生類、メダカ・ドジョウ・タナゴ類などの淡水魚といった、かつてはごく普通に身近に見られたさまざまな水辺の生き物たちが、今は絶滅のおそれのある希少生物になっています。たとえば日本固有の汽水・淡水魚は、その多くが水田やその周辺水路を含む里山など人間が関わる環境に生息していますが、評価対象全400種のうち、約42%が絶滅危惧種に指定されています※1/※2

日本の水田風景[写真提供:WWFジャパン]

日本の水田風景[写真提供:WWFジャパン]

日本の田んぼの生き物が減っている主な原因は、人間活動によるものです。開発などによる水田面積の減少、水路のコンクリート化・農薬の使用・冬に水を抜く水位調整など効率性を優先した水田整備施策、食用やペットとして持ち込まれた外来種の影響などが指摘されています※3
2009年に科学誌Natureに発表された論文でも、「工業化された農業」は、「化石燃料への急速な依存拡大」と並んで、「地球の限界(Planetary boundary)」を超え、生物多様性を損なう人間活動の代表として挙げられています※4

多種多様な生物が生息する水路[写真提供:WWFジャパン]

多種多様な生物が生息する水路[写真提供:WWFジャパン]

一方で、生き物と共存しようとする米作りも一部で始まっています。たとえば、トキやコウノトリなど昔から人と暮らしてきた生き物とそれを支える多種多様な生き物の生息環境をまもるため、農薬の使用を減らしたり、冬季も水を湛えたりする取り組みが、生産者、研究者、自治体、取扱業者、NGOなどの連携で行われています。そのように生産されたお米は、都市部にも流通するようになっています。

また、田んぼの生き物たちの存在や水辺の環境の変化は、実際にその中に足を踏み入れてみないと実感できないものです。そのような体験型の観察会や生物調査に参加できるイベントが、WWF主催のものを含め、各地で開催されています。私もいくつか参加する機会がありましたが、普段はゲームに没頭している子どもたちも、たまには2次元の世界を飛び出して、田んぼで五感をフル活用する体験をすると、さまざまな発見があるようです。また、忙しく働く都会の大人たちも、清澄な空気の中、やわらかい土に触れて、さまざまな生き物の姿を目の当たりにすると、心身ともにリフレッシュできるので、おすすめです。

この秋、自分が食べるお米を選ぶとき、消えつつある田んぼの生命にも思いをはせてみませんか。また、機会を見つけて、田んぼの風景の中に足を運んでみませんか。万葉のいにしえから日本人が親しんできた田んぼとお米から、「地球1個分」の暮らしを始めてみませんか。

○WWFジャパンでは、自然や生きものに関するさまざまなイベントを随時開催しています。 

小田 倫子(おだ ともこ)

公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)職員(法人パートナーシップ担当)。
企業法務の弁護士として10年間稼働後、家族の転勤に伴い沖縄に居住したことなどを契機に、自然保護の仕事を志して保全生態学を専攻、2013年から現職。生物多様性保全や気候変動への取り組みに関する企業との協働プロジェクトの提案、実施業務を担当。趣味は里山散策と水生生物の観察。東京大学法学部卒、同大農学部(保全生態学専攻)卒、カリフォルニア大学バークレー校法学修士(環境法等専攻)。

写真:小田 倫子(おだ ともこ)
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