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「つなぐコラム」“地球にちょうどいい暮らし方”

第7回 脱炭素社会の実現に挑む非国家アクターの取り組み池原 庸介

2018年の夏は、東日本、西日本ともにたいへんな酷暑となりました。
埼玉県熊谷市で国内の観測史上最高となる41.1度を記録し、全国38都市で30日以上の猛暑日(1日の最高気温が35度以上の日)を記録しました。7月には『平成30年7月豪雨』が発生し、西日本を中心に甚大な被害を引き起こしました。近年では、こうした異常気象による河川の氾濫や土砂災害などが多発し、多くの死傷者を出しています。産業革命以降、世界の平均気温は約1度上昇しましたが、このまま温暖化していくと、さらに気候変動が進み、異常気象もますます激甚化していくことが予測されています。

強大化する台風[出典:ESA/T. Reiter]

強大化する台風[出典:ESA/T. Reiter]

パリ協定は、気温上昇を2度までに抑えるために、今世紀の後半には人間活動による温室効果ガスの排出を実質ゼロ、すなわち脱炭素社会を実現することを目指しています。ところが、現在の世界各国の削減目標では2度に抑えることは難しく、2100年までに3度以上気温が上昇する見込みです。そこでパリ協定では、5年サイクルで削減目標を引き上げていくための仕組みを盛り込んでいます。この仕組みの成否は、各国政府が目標を大幅に改善しようという意欲を持つかどうかにかかっています。

こうした背景の中で、『非国家アクター』と呼ばれる政府以外の主体、すなわち企業や都市、投資家、NGOなどに対する期待が高まっています。そうした政府以外の主体が温暖化対策に積極姿勢を示すことは、各国の目標引き上げの機運に大いに寄与することになります。国の温室効果ガス排出量は、家庭や業務、産業、運輸といった各部門の排出量の合計なので、非国家アクターの野心的な温暖化対策は、国全体の排出量の削減に直結するからです。

2017年6月に米国トランプ政権がパリ協定からの離脱を宣言した際、即座に立ち上がったのが非国家アクターによるイニシアティブ『We Are Still In(WASI)』でした。WASIには、全米の企業や機関投資家、州政府、都市など3,500以上の非国家アクターが参加(2018年11月時点)し、パリ協定に留まり気候変動対策に取り組んでいくことを鮮明に打ち出しています。コロンビア大学やMIT、カリフォルニア大学バークレー校など約350の大学も参加しています。連邦政府のスタンスがどうあれ、実際の排出者である非国家アクターらは、パリ協定の下で脱炭素社会を目指しているのです。

2018年7月には、日本でも非国家アクターによる『気候変動イニシアティブ(JCI)』が発足しました。全国の企業や自治体など290の非国家アクターが参加(2018年11月時点)しており、脱炭素社会の実現に日本から積極的に貢献していくことを宣言しています。12月のCOP24に先立ち、同年10月には『気候変動アクション日本サミット』を開催しました。東京都の小池都知事や京都市の門川市長など総勢29人が登壇し、約700人の参加者に対して脱炭素に向けた先進的な取り組みを紹介し、登壇者間で活発な意見交換が行われました。非国家アクターの高いモチベーションによって、日本社会における脱炭素化への機運が高まっていることを確信させる重要な道標となりました。

気候変動サミット日本アクションの様子[出典:WWFジャパン]

気候変動サミット日本アクションの様子[出典:WWFジャパン]

世界の非国家アクターらは、どのような取り組みを進めているのでしょうか?
2017年12月のCOP23では、ニューヨークやパリ、ロンドンなど世界25の大都市が2050年までに排出量の実質ゼロ化を目指していくことを表明しました。また、パリ協定と整合した削減目標の設定を推奨する国際イニシアティブ『Science Based Targets』に参加し、2030年や2050年といった長期的な視点に立った削減目標の策定を進めている企業もあります。
近年、企業の売上高や利益などに加え、環境(E)や社会(S)への配慮も重視して投資先を選定するESG投資の潮流が強まっています。かつては、過度の温暖化対策は「コスト」と見なされ、投資家からネガティブに見られることもありました。しかし現在では、世界が脱炭素社会へと向かうことを前提に、本業においても積極的に温暖化対策に取り組む企業こそが高い評価を得られるようになっています。

以上のように、パリ協定の発効とESG投資の台頭を機に、投資をする側、される側、そして世界の都市など、あらゆる主体がこぞって脱炭素社会の実現に向けた取り組みを加速させています。

私たち消費者も、広い意味で見れば非国家アクターにあたり、日常生活において脱炭素社会を意識した消費行動が重要です。例えば商品を選ぶ際に、より省エネ性能の高い製品を選んだり、サプライチェーン全体で実効性の高い温暖化対策を実践している企業の製品を優先的に選んだりする視点が大切です。

皆さんも、非国家アクターの一員として脱炭素社会を意識したライフスタイルを目指してみませんか。

池原 庸介(いけはら ようすけ)

公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン) 気候変動・エネルギーグループ プロジェクトリーダー。
自動車メーカーで環境関連業務に従事した後、英エディンバラ大学において、気候変動科学の研究(炭素循環)に従事。2008年から現職。企業の温暖化対策ランキングプロジェクトやScience Based Targets(SBT)、クライメート・セイバーズ・プログラムなどを通じ、主に気候変動分野における企業協働に取り組んでいる。グリーン電力証書制度 運営委員。法政大学人間環境学部 非常勤講師。

写真:池原 庸介(いけはら ようすけ)
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