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「つなぐコラム」“地球にちょうどいい暮らし方”

第9回 バレンタインに知ってほしい、
チョコレートと森にすむ野生動物の関係伊藤 小百合

もうすぐ、バレンタイン! デパートやスーパー、そしてコンビニでも、バレンタイン限定のチョコレートをたくさん見かけるようになりました。日本のチョコレートの販売額は、1年間で約5,500億円※1。これはアジアで最大だと言われています。ここ数年は「Bean to Bar」というキーワードもトレンドになっているようです。

熟したカカオの実[出典:WWF-Indonesia / Nurman]

熟したカカオの実[出典:WWF-Indonesia / Nurman]

これは、産地によって風味や香り味わいなどが違うカカオ(Bean)を、こだわりをもって調達し、板チョコレート(Bar)ができるまでの工程を一貫して担うスタイルを指す言葉だそうです。中には、調達元となるカカオ農家が、安定してカカオを生産できるよう、環境に配慮した農法を実施する取り組みもあります。というのも、世界中で需要が高まるカカオを生産できるのは、地球上でもごく限られた熱帯地域のみ。熱帯は地球で最も生物多様性が豊かな熱帯林の広がる地域でもあるからです。

世界有数の生物多様性を誇る東南アジアの熱帯林[出典:naturepl.com  Anup Shah / WWF]

世界有数の生物多様性を誇る東南アジアの熱帯林
[出典:naturepl.com Anup Shah / WWF]

WWFジャパンが活動するインドネシアのスマトラ島では、熱帯林が広がる国立公園内でも、カカオなどの作物を作るために違法に森林が伐採され、土地が開墾されることで起こる森林減少が問題視されてきました。ゾウやトラ、そしてサイなど、多くの野生動物が命をはぐくむ熱帯林が減少する原因は実にさまざまですが、そのひとつに「カカオ」があったのです。

インドネシアのブキ・バリサン・セラタン国立公園にて撮影されたスマトラトラ[出典:WWF Indonesia]

インドネシアのブキ・バリサン・セラタン国立公園にて撮影されたスマトラトラ[出典:WWF Indonesia]

農家の中には、貧困の問題を抱え、しかたなく違法なカカオ栽培を手掛ける人もいました。そこで、WWFは国立公園の中で違法に耕作することをやめてもらえるように、対話を続け、村内での農作物の生産性を向上させるための有機農法などを推進。高い付加価値をつけて作物が販売できるようなトレーニングを実施しています。収穫されたカカオには、発酵や乾燥などの加工作業も必要です。そうした技術も指導し、販売先を開拓する支援も行なってきました。合法なだけでなく、持続可能な農法がさらに広がることで、残された森が守られるよう、支援は続けられています。

収穫されたカカオと、農家の人々の様子[出典:WWF-Indonesia  Nurman]

収穫されたカカオと、農家の人々の様子
[出典:WWF-Indonesia Nurman]

意外なところで野生動物とつながっていたチョコレートですが、カカオ以上に熱帯林減少の主因だと指摘されている原材料もあります。それはココアバターの代替油脂として使用される「パーム油」という植物油です。初めて聞く方も多いかと思いますが、パーム油は今地球上で一番多く使用されている植物油。実はチョコレートだけでなく、スーパーに並ぶ商品の約半分に含まれていると言われています。

日本の生活にもとても身近なパーム油[出典:WWFジャパン]

日本の生活にもとても身近なパーム油[出典:WWFジャパン]

パーム油は「アブラヤシ」という西アフリカ原産のヤシの木になる実から採れる油です。そしてこのアブラヤシもまた、カカオのように赤道を中心とした熱帯地域でのみしか栽培することができない植物なのです。現在、世界中で利用されているパーム油の約85%がインドネシアとマレーシアの2国から生産されています。パーム油の生産は、熱帯林減少などの環境問題をはじめ、児童労働や人身売買、強制労働など、アブラヤシ農園での人権面での問題も指摘されています※2

アブラヤシの果房(20〜40kg)を積み込む作業の様子[出典:WWFジャパン]

アブラヤシの果房(20〜40kg)を積み込む作業の様子
[出典:WWFジャパン]

アブラヤシ農園の拡大により、すみかの森を失った野生ゾウ[出典:WWF Indonesia]

アブラヤシ農園の拡大により、すみかの森を失った野生ゾウ
[出典:WWF Indonesia]

しかしパーム油にはメリットもあります。パーム油は、食品や洗剤、化粧品など、いろいろな商品に使える便利な油です。食品に使うと、トロっとした食感もサクっとした食感も出すことができます。また、ほかの油脂と違い、肥満や心筋梗塞などを引き起こすとされるトランス脂肪酸という物質をほとんど出さずに加工して食品に使用することができます。さらに、低価格です。そして何より、パーム油は世界で一番生産性の高い植物油です。他の植物油に切り替えると、同量の油を生産する上では今よりも広大な農地が必要になるため、さらなる森林破壊の恐れもあるのです。

1ヘクタールの土地からできる植物油の量[出典:RSPO IMPACT REPORT 2014]

1ヘクタールの土地からできる植物油の量[出典:RSPO IMPACT REPORT 2014]

そこでWWFは、パーム油の利用を止めるのではなく、パーム油の生産方法を森林環境に配慮したものに切り変えていくことが大切だと考えています。そして森林保全や地域住民の暮らし、労働環境などに配慮した「持続可能なパーム油」であるRSPOを推奨しています。これは、希少な野生動物がすむ森を守りながら生産されたパーム油にラベルを付して、買う人が選べるような仕組みです。2019年1月現在、RSPOの取り組みに参画する日本企業は120社を超えています※3。洗剤などではRSPOマークの付いた商品が増えてきています。そしてRSPOマークは付されていないものの、RSPOに認証を受けた油を使用する商品もあります※4。パーム油を含む商品には「植物油」「植物油脂」「ショートニング」「マーガリン」など、別の名前で記されているケースが多くあります。お買い物の際は、ぜひ気にかけてみてください。

RSPOマークのついた食品[出典:WWFジャパン]

RSPOマークのついた食品[出典:WWFジャパン]

みなさんに身近なチョコレートに含まれているカカオやパーム油は、どこでどのように作られた原材料を使用しているのでしょうか? そんなところに目を向けてみながら、ぜひ今年のバレンタインの時期を過ごしてみてください。

伊藤 小百合(いとう さゆり)

公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン) 森林グループ アウトリーチオフィサー。

北極のツンドラで植生調査に従事した後、米国の在来種種苗を育成するナーサリーで働く。帰国後、科学館で勤務し、2016年から現職。人の生活に欠かせないパーム油などの産品の生産方法が改善され、森林が守られるよう、森林グループのアウトリーチ活動を実施。現地の保全活動のコミュニケーション発信を担当している。

写真:伊藤 小百合(いとう さゆり)
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