2014年4月8日
日本電信電話株式会社
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所
国立大学法人 大阪大学
日本電信電話株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:鵜浦 博夫 以下、NTT)と大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(東京都千代田区、所長:喜連川 優 以下、NII)、国立大学法人 大阪大学(大阪府吹田市、総長:平野 俊夫 以下、大阪大学)は、超伝導磁束量子ビット※1とダイヤモンド量子メモリ※2を組み合わせたハイブリッド系において、長い寿命を持つ隠れた量子状態(ダーク状態※3)が発現するメカニズムを世界で初めて明らかにしました。
本結果は、保持時間の長い量子メモリを構成する新しいアプローチとして応用できるため、大規模量子コンピュータに必要となるリソースの大幅な削減と、それに伴う開発コストの低減とにつながることが期待されます。そのため、高速の量子情報処理の実現に向けたブレークスルーとなる可能性を有します。
今回得られた成果は、英国の科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」(4月8日付)で公開されます。
本研究は、内閣府/日本学術振興会・最先端研究開発支援プログラムの支援を受けています。また、本研究の成果の一部は独立行政法人情報通信研究機構(東京都小金井市、理事長:坂内 正夫)からの委託研究「量子もつれ中継技術の研究開発」により得られたものです。
量子ビットとは量子コンピュータを構成する基本要素です。どのような系を用いて量子ビットを構成し、量子的な情報をどのように保持し、量子演算をいかに実行していくかについて、様々な方式が提唱されています。なかでも、制御が可能で、超寿命な量子ビットを実現するために、2つの異なる系をハイブリッド化する研究が盛んに行われています。
NTT、NII、大阪大学の研究チームでは、高い制御性を持つため量子プロセッサとして使用可能な「超伝導磁束量子ビット」と、潜在的には長い寿命を持つと期待される「ダイヤモンド量子メモリ」を組み合わせたハイブリッド系の実現に2011年に成功しました(図1 )。しかし、ハイブリッド系にした際に、ダイヤモンド量子メモリの寿命が十分に延びておらず、その長寿命化が課題でした。原理的には、ダイヤモンド中の電子スピン密度を減らすことで寿命を延ばせることが知られています。しかしこの方法を用いると、超伝導磁束量子ビットとダイヤモンドの間の結合が弱くなりハイブリッド化が難しくなるという問題がありました。
また、ハイブリッド系にすることにより、超伝導磁束量子ビットやダイヤモンド量子メモリ単体では観測されていなかった「長寿命状態」が観測されることが知られていました(図2 )。しかし、この長寿命状態が発現するメカニズムが不明のため、量子メモリとしての活用ができませんでした。もしこの状態の活用ができれば、超伝導磁束量子ビットとダイヤモンドの間の結合を弱めることなく長寿命量子メモリが実現できる可能性があるため、その起源の解明が求められていました。
NTT、NII、大阪大学の研究チームは、超伝導磁束量子ビットとダイヤモンド量子メモリを結合したハイブリッド系で、量子メモリ実現のために重要となる「長寿命のダーク状態」の発現するメカニズムを世界で初めて解明しました(図3 )。
ダーク状態とは量子力学的干渉性※4のためにその系から発する信号が打ち消されてしまい、実験的に検出のできない「隠れた状態」を意味します。このようなダーク状態は一般に長寿命であることが知られているものの、実験的に検出ができないため、量子情報への活用は難しいと考えられています。
研究チームは、超伝導磁束量子ビット・ダイヤモンド量子メモリのハイブリッド系においては、結晶の歪みや磁場ノイズのために干渉が完全には働かず、ダーク状態由来の信号が検出可能であることを理論的に示しました。そして実際にその信号を実験的に補足し、量子状態の寿命が、従来のハイブリッド系の量子メモリでは、20nsだったものが、ダーク状態では150nsまで長くなることを示しました。ダーク状態が利用できるようになれば、量子メモリの長寿命化が期待できます。そのため、制御性の良い量子プロセッサの超伝導磁束量子ビットとあわせて用いることで、量子コンピュータの大規模化に必要なリソースを大幅に削減できるようになります。その結果、量子コンピュータを用いて、現在用いられているコンピュータと桁違いの速さで計算が実行できるようになる展望が開けてきます。
超伝導磁束量子ビットを電子スピン集団に結合させるには、超伝導磁束量子ビットのエネルギーを電子スピンのエネルギーに共鳴させる必要があります。しかし従来の技術では、超伝導磁束量子ビットのエネルギーを変化させるとその寿命が短くなってしまい、量子性を失ってしまうという問題点がありました。NTTではこの問題点を克服できる「ギャップ可変型」と呼ばれる超伝導磁束量子ビットを作製する技術を持っており、超伝導磁束量子ビットの寿命を下げることなく電子スピンとエネルギーを共鳴させ得る点が大きな強みです。
超伝導磁束量子ビットと電子スピン集団の結合系は、電子スピンの数が非常に多く(107個程度)、現状の最速のスーパーコンピューターを使っても完全なシミュレートができないため理論解析が困難であることが知られています。NTTとNIIで、この系を通常の計算機でも解析できるような近似法を開発し、実験結果を高い精度で再現できる理論モデルを構築している点が、大きな強みです。
ダイヤモンド中に含まれる電子スピンを量子メモリとして用いるには、電子スピン密度を計測し、最適な濃度のダイヤモンド基板を用意する必要があります。大阪大学では、ダイヤモンド中の電子スピンを光により励起し、基底状態に落ち込むときに電子スピンから放出される光の量を精密に測定することで、電子スピン密度を測定できる技術を持ちます。
このダーク状態を用いて、実際に量子メモリ動作が可能であることを実験的に実証し、長寿命量子メモリ実現に向けて取り組んでいきます。さらに、複数の超伝導磁束量子ビットを互いに結合させ、全ての超伝導磁束量子ビット上に電子スピン集団から構成される量子メモリを搭載している、集積化量子回路の構築を目指します。大規模量子計算機の実現に向けた超伝導磁束量子ビットと電子スピン集団の結合素子の要素技術の研究を進めます。
日本電信電話株式会社先端技術総合研究所 広報担当 大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構国立情報学研究所 国立大学法人 大阪大学大学院基礎工学研究科・庶務係 |
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