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NTT持株会社ニュースリリース

(報道発表資料)

2021年1月8日

国立大学法人東京工業大学
日本電信電話株式会社

一次元プラズモン回路による高周波信号の量子化分配器を実現
〜整数・分数量子ホール効果を用いた新機能高周波素子〜

要点

  • 高周波信号を正確な整数比で分配することができる量子化分配器を実現
  • 磁場中の半導体でおこる量子ホール効果を用いて、電子の集団運動(プラズモン)を情報媒体とする一次元プラズモン回路で分配器を構成
  • 正確な整数比で電荷を分配することができるため、高速で正確な信号伝達技術に活用が可能で、さらに新たなトポロジカル量子技術への発展が期待される

 東京工業大学 超スマート社会卓越教育院のChaojing Lin(リン・チャオジン)特任助教、理学院 物理学系の藤澤利正教授、日本電信電話株式会社 物性科学基礎研究所の橋坂昌幸主任研究員らの共同研究グループは、量子ホール効果(※1)を用いた一次元プラズモン回路(※2)において、高周波信号を正確な整数比で分配することができる量子化分配器を実現した。これは、整数・分数量子ホール効果における電荷の分数化現象を明らかにしたことによる成果である。
 本成果による量子化分配器は、正確な整数比で電荷を分配でき、その分配比を選択できるため、高速で正確な信号伝達技術に活用できる。また超高速信号処理や新たな機能性をもたらすトポロジカル量子技術(※3)への発展が期待される。
 本研究成果は、英国科学誌Nature Communicationsに1月7日(現地時間)オンラインで掲載された。

1.研究成果

 量子ホール効果を用いた一次元プラズモン回路において、高周波信号を正確な整数比で分配することができる量子化分配器(※4)を実現した。
 図1は、量子化分配器の模式図を表しており、入力信号を正確に1:1で分配する素子[図1(a)]と、入力信号を正確に2:1で分配する素子[図1(b)]の例を示している。入力に波束状の電圧パルス(電荷量q)を入射すると、一次元プラズモン回路(赤と青の実線)を電荷の波束が伝搬し、Y字型の分岐路において電荷量の比が正確に1:1または2:1に分配され、それらの信号が2つの出力に現れる。
 これらの整数分配比は、量子ホール効果におけるランダウ占有率(※5)によって決まる。Y字分岐を構成する周囲の3つの領域A, B, Cにおけるランダウ占有率(それぞれνA, νB, νCとする)を、およそνA = 2, νB = 1, νC = 0にすることで、電荷を正確に1:1で分ける1:1量子化分配器を構成することができる[図1(a)]。また、およそνA = 1, νB = 2/3, νC = 0にすることで、電荷を正確に2:1で分ける2:1量子化分配器を構成することができる[図1(b)]。νA, νB, νCの値が上記の値から若干ずれていても、正確に整数の比率で電荷を分配できるという特徴を有する。また、この分配比はランダウ占有率を選ぶことで切り替ることができる。これは、整数・分数量子ホール効果における電荷の分数化現象と呼ばれ、その分配比が整数比に量子化されることを以下の実験で検証したものである。
 実験では、図2(a)(b)の挿入図のように、右側にあるY字分岐(点線内)の片方の出力を、左側のY’分岐(ここでは電荷の分配は全くおこらない)に戻すことで、分配過程が繰り返されるループ回路を構成した。入力に電荷量qの波束を入れ、Y字分岐の他方の出力に現れる電荷量(電流波束の面積)を測定した。図2(a)の1:1の分配器では、入射電荷量qに対して、電荷量がq/2, q/4, q/8, …の電荷波束が出力され、図2(a)の2:1の分配器では、入射電荷量qに対して、2q/3, 2q/9, …の電荷波束が出力されることから、正確な整数比で分配することができる量子化分配器の動作(電荷の分数化現象)が検証できた。
 用いた素子は、GaAs(ガリウム砒素)とAlGaAs(アルミニウムガリウム砒素)の半導体ヘテロ構造を微細加工したもので、図3(a)の写真のように、半導体ヘテロ構造(薄いグレー)をエッチング加工(濃いグレー)し、オーミック電極(ΩI, ΩD)とゲート電極(G1, GI, GD)が形成されている。半導体ヘテロ構造とゲート電極G1が重なった領域を用いて、図2のループ回路が構成されている。ゲート電極GIを用いて電荷波束を発生し、ゲート電極GDとオーミック電極ΩDを用いて電荷波束を測定した。磁場やゲート電極に印加する電圧を調整することで、分配比率(1:1、2:1など)を切り替えることができる。素子は、図3(b)の写真のパッケージに収められ、極低温強磁場中にて動作を検証した。

図1 量子化分配器の模式図
図1 量子化分配器の模式図
図2 実験結果。挿入図は素子の模式図(破線内が分配器)。
図2 実験結果。挿入図は素子の模式図(破線内が分配器)。
図3 量子化分配器実証用素子の写真
図3 量子化分配器実証用素子の写真

2.背景

 高度な情報化社会(超スマート社会)の実現には、高速で正確な信号伝達技術が不可欠である。しかし、通常の電気信号(電磁波)による高周波信号は、回路の僅かな不整合による反射が発生し、高周波になるほど正確な信号伝達が難しくなる。本研究で着目する量子ホール効果を用いた一次元プラズモン回路では、不整合による反射が原理的に存在せず、信号は決まった一方向(図1の矢印の方向)に伝搬するため、高速で正確な信号伝達が可能になると期待されている。
 入力信号を複数の出力に分ける分配器は、高周波回路で必須の基本回路ながら、正確な分配器を実現することは困難である。本研究で実現した量子化分配器は、正確な整数比で電荷を分配することができ、その比率を切り替え可能であるため、高速で正確な信号伝達技術に活用することができる。例えば、高い精度で高周波信号を切り替える必要がある量子コンピュータ用制御回路等への応用が期待される。

3.研究の経緯

 本研究では、量子ホール効果を用いた一次元プラズモン回路やその電子物性について研究を進めてきた。これまでの研究で、類似のY字分岐による信号分配回路の研究を行ってきが、回路の静電容量のばらつきによって正確な整数分配比を得ることは困難であった。今回、プラズモン回路に顕著なトンネル現象がある場合に着目することで、正確な整数比に量子化された電荷の分配(論文タイトルのquantized charge fractionalization)を得ることが可能になった。

4.今後の展開

 本研究で実現した量子化分配器は、切り替え可能な整数比で電荷を分配することができるため、高速で正確な信号伝達が要求される回路に活用することができる。この手法を発展させることで、半導体をベースとした量子コンピュータの制御手法に関する研究に繋げる。
 正確な整数比での信号分配という量子機能性は、量子ホール効果をもたらす電子状態が特殊なトポロジカル状態にあることに起因する。本研究で見出した現象は、電荷分数化現象(charge fractionalization)と呼ばれ、物性物理学における興味深い現象であり、非自明な準粒子の機能性をもたらすトポロジカル量子技術への発展が期待される。

謝辞

 本研究は、科学研究費補助金「トポロジカル物質ナノ構造の輸送現象(新学術領域研究JP15H05854、研究代表者:藤澤利正)」、「メゾスコピック量子ホール系の低次元準粒子制御と非平衡現象(基盤研究(S) JP19H05603、研究代表者:藤澤利正)」、文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」事業の支援を受けて行われた。

用語説明

※1量子ホール効果
半導体中の二次元電子系に磁場を印加することで、ホール伝導度が量子化する効果。このとき、二次元電子系の端に、電子が一方向に流れる一次元チャネルが形成されており、伝導度が正確に量子化されていることから抵抗標準にも用いられている。
※2一次元プラズモン回路
量子ホール効果における一次元チャネルを用いて、電子の集団運動(プラズモン)を情報媒体とする回路。高い周波数であっても反射が起こらないため、正確な情報伝達が可能になる。
※3トポロジカル量子技術
電子状態がトポロジカル状態にあることに起因した量子現象を応用する技術。本研究の一次元プラズモン回路における成果もその一種であるが、電荷だけでなく、非自明な準粒子の分数化現象や機能性を活かした発展性が見込まれている。
※4量子化分配器
分配器は、高周波信号の入力を複数の出力に分配する素子で、テレビの高周波信号用の分配や、高周波用集積回路における信号の分配などに用いられている。本研究の量子化分配器は、分配比が正確な整数比に量子化されているという特徴があり、その整数比を切り替えることができる。
※5ランダウ占有率
磁場(磁束量子の密度)に対する電子密度の比を表す値で、整数値(1, 2, 3,…)に近い条件で整数量子ホール効果が現れ、分数値(1/3, 2/3など)に近い条件で分数量子ホール効果が現れる。

論文情報

掲載誌 Nature Communications
論文タイトル Quantized charge fractionalization at quantum Hall Y junctions in the disorder dominated regime
著者 Chaojing Lin, Masayuki Hashisaka, Takafumi Akiho, Koji Muraki, and Toshimasa Fujisawa
DOI 10.1038/s41467-020-20395-7

お問い合わせ先

東京工業大学

理学院 物理学系 教授
藤澤 利正
TEL:03-5734-2750
FAX:03-5734-2750
Email:fujisawa@phys.titech.ac.jp

取材申し込み先

東京工業大学

総務部 広報課
TEL:03-5734-2975
FAX:03-5734-3661
E-mail:media@jim.titech.ac.jp

日本電信電話株式会社

先端技術総合研究所 広報担当
TEL:046-240-5157
E-mail:science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp

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